福岡市ふるさと納税の返礼品にもなった「遺伝子検査キット」濫用の危うさ
今年4月には、東京都内の保育園が「子育てに役立つ」として子どもの遺伝子検査を受けることを呼びかけ、保護者の3割が応じていたことが毎日新聞の報道で発覚した。これを受けて加藤鮎子こども政策担当相は「子どもの教育・保育を担う施設が遺伝子検査を推奨することは極めて慎重にしてほしい」と注意喚起したばかりだ。 にもかかわらず、なぜ、子ども向けの遺伝子検査が広まっているのか。その背景にあるのが、遺伝子検査をめぐる厚生労働省と経済産業省の長年の暗闘だ。
現在、医療機関が実施する遺伝子検査は厚労省が所管している。使用する検査キットも同省の承認が必要で、ほかにもさまざまな規制がある。一方、経産省が所管する民間の遺伝子検査は自主規制のみ。企業の判断に委ねられている。 厚労省関係者は「厚労省は規制をかけたいが、経済成長を重視する経産省が消極的という対立が続いていて、結果的に野放し状態になった」と話す。民間の遺伝子検査会社の社員も「所管が経産省だから、日本で遺伝子検査ビジネスが広がった」と認める。
民間企業で構成される遺伝子検査の業界団体も、独自に定めたガイドラインで未成年への遺伝子検査に自粛を求めている。だが、ガイドラインに違反しても罰則はなく、そもそも業界団体に所属していない検査会社も多い。 ■子どもの将来に悪影響を与えかねない 今の状況が続くことは、子どもの将来に悪影響を与えかねない。 中国では、乳幼児の時点で子どもの才能を親が調べる遺伝子検査が流行している。鑑定で「記憶が得意ではない」と判定されたことで、医師や弁護士のような専門的職業を諦めさせる親もいるという。認定遺伝カウンセラーで、『遺伝子検査のモラル』の共著者である青木美保氏は言う。
「科学的根拠が不十分なのに、誤解を招き、子どもの将来に影響を与える鑑定結果を出すことは倫理的な問題が大きい。また、医学的に本当に必要な遺伝子検査にも不信感が広がり、遺伝子医療の信頼を損ねかねない」 医学的な遺伝子検査では、特定の遺伝子変異が引き起こす病気を診断し、予防医療を実施する場合がある。その一例として知られているのが、ハリウッド俳優のアンジェリーナ・ジョリーが、乳がんや卵巣がんなどの発症確率を高める「BRCA1」という遺伝子に変異があり、2つの乳房と卵巣を切除する手術を受けたことだ。こうした検査には、十分な説明と本人の理解が欠かせない。青木氏は、「検査を受けてもらう前には、成人では本人に1時間ほどカウンセリングをする。未成年者を検査するときも、両親とその子の年齢に合わせた資料を作成し、よりよい医学的な選択ができるよう支援している」と話す。