ネット配信作は「非映画」か――それでも「資金を回収できないと次が作れない」、行定勲の決断【#コロナとどう暮らす】
コロナ禍で映画界も打撃を受けている。行定勲監督は、新作2作が公開延期となった。そんななか、4月に急遽、完全リモートで製作した新作をインターネットで無料配信。公開延期作のうち1作は今月、公開と同時に定額制動画サービスで配信する。ただし、従来の業界の定義からすれば、「映画」扱いされるのは難しいという。その場合、賞レースの対象から外れることもある。映画館での上映と、ネット配信。収益を上げて次の製作につなげるにはどうすべきか、「映画」とは何を指すのか、監督に聞いた。(取材・文:内田正樹/撮影:野村佐紀子/Yahoo!ニュース 特集編集部)
むちゃくちゃなことをしているつもりはない
今春、映画監督の行定勲(51)は、2本の新作映画がコロナ禍の影響から公開延期に追い込まれた。『劇場』(公開予定4月17日)と、『窮鼠はチーズの夢を見る』(同6月5日)である。『劇場』公開延期の発表は、公開日の直前(4月11日)のことだった。 「長年の勘から、この2本の映画は『近年の自分の代表作になる』という強い手応えがあった。『今年はいい年になるといいな』と思っていたのですが。初めの頃、延期は前向きに受け止めていました。致し方ない事態だし、お客さんにも良い状態で観てもらいたかったから。でも徐々に、『これは本当に公開できるのか?』と不安な状況になっていった」
『劇場』は芥川賞作家・又吉直樹の同名小説の映画化で、主演を山崎賢人、ヒロインを松岡茉優が務めている。演劇の世界で夢を追う青年と、それを支える恋人が織り成す7年間の恋物語は、関係者の評判も上々で、当初は全国280スクリーンでの上映が決定していた。ところが、コロナ禍で状況は一変、公開に暗雲が立ち込める。 「出資を予定していた会社から『もう出資がかないません』という言葉を聞かされた。280スクリーンという評価を受けた以上、公開を全国に知ってもらうため、それに見合った宣伝費で撃つべき弾を撃った後だった。公開を仕切り直して、直前の宣伝もなくただ流しても観客は戻ってこない。劇場も困窮しているなか、目標の興行収益も見込めないのに、これ以上は宣伝費も上乗せはできない。『リクープ(資金回収)できない』と判断されたわけです」 「商業映画は資金が必要なので、絶対に利益を出さなければならない。まずはリクープをして、さらにプラスアルファの収益を出して次の作品につなげるのが目標です。リクープすらできないと、特に僕が撮っているようなミニマムな人間関係を描く中規模作品は製作を後回しにされてしまい、どんどんと作りづらい状況に陥ってしまう。それだけは何としても避けながら、どうすれば観客に『劇場』が届けられるのかを真剣に考えました」 そして、6月25日、事態は急展開する。配給が松竹/アニプレックスから製作幹事の吉本興業へ移管。上映規模を全国20館のミニシアターに縮小したうえで、7月17日に公開することに。しかも、劇場公開同日からAmazon Prime Videoにおいて全世界独占配信されると発表されたのだ。 劇場用の新作日本映画が、公開同日から、しかも世界に向けて配信されるというケースは極めて異例だ。日本のAmazon Prime Videoとしても初の試みとなる。