ネット配信作は「非映画」か――それでも「資金を回収できないと次が作れない」、行定勲の決断【#コロナとどう暮らす】
「文化なんて後回しだよ」という言葉には、やっぱり傷付く
4月7日以降の自粛期間中も、行定は新しい映画を手掛けていた。完全リモートで撮影されたショートムービープロジェクト『A day in the home Series』である。 「僕自身、好きなことを生業(なりわい)にしてきたので覚悟はしてきたし、ある意味、いつ淘汰されても仕方がないと常に思いながら映画と向き合ってきた。でも『文化なんて後回しだよ』という言葉を耳にすると、やっぱり映画人はみんな傷付くわけです。僕は人々に気付きや豊かさをもたらしてくれる文化の力を絶対的に信じている。だったら、もう傷付く前に是が非でも新作を発表したほうがいいんじゃないかと。何より、僕自身、公開延期のもやもやを打破したかったし、何かを発表して、観客の存在も確認したかった」 4月24日にYouTube上で無料配信された『きょうのできごと a day in the home』には柄本佑、高良健吾、永山絢斗、アフロ(MOROHA)、浅香航大、有村架純が出演。5月17日配信の『いまだったら言える気がする』には、中井貴一と二階堂ふみ、アイナ・ジ・エンド(BiSH)が出演している。
役者は全員がノーギャラ。ヘアメイクや照明は役者各々に判断を委ね、“自粛生活下”という設定のもと、撮影は全てリモート会議ツールを使って行われた。 「役者は一流ぞろいなのだから、本当はお客さんからお金を取ったほうがいい。でも、『これは文化への奉仕。今まで映画を観てくれた人たちへの奉仕』と役者たちに伝えると快く賛同してくれた。脚本家と相談してから3日後には脚本が仕上がり、1週間後にはキャスティングが固まって、2週間で配信に漕ぎ着けた。1作目は公開日の前日に撮影し、一晩でテロップや音を調整して、YouTube上にアップした。ある意味、不完全な映画の作り方ですよ。カメラマンもいないし、照明も美術もいない。要は脚本だけ用意して、あとは役者主体で演じてもらうだけ。僕からはリハーサルを1回やって、『あのシーンはこうだったらいいかもね』とアドバイスを言った程度で、役者のアドリブも入っています」 せりふの随所に映画監督の名前やさまざまな名作のタイトルをちりばめた、“映画愛”に溢れた2篇のショートムービーは公開終了(6月4日)までに合計32万回再生された。 「公開終了後、Huluが配信に手を挙げてくれた(※現在Huluで視聴可能)。そこで得る配信料は、一部経費を控除した後、いま困窮している医療従事者の方々や映画関係者に全て寄付します。最初は無料で、後から配信会社が手を挙げてくれたという流れになったのはうれしかった」