なぜ阪神の“ミスター無失点”渡辺雄大は戦力外から30歳にして感動のプロ初勝利を手にできたのか…母が新潟で続ける“恩返し応援”
矢野監督も、渡辺とのツーショット写真に納まり、その勝利を称えた。 「1回、戦力外というか、悔しい思いをしてうちに来ている。そういう気持ちをいつも投げているときに感じるし、チームの大きな力になってくれている。自分のためにも、チームのためにもこれからもやってくれると思う」 育成契約から2度も這い上がってきた、その“不屈の魂”の原点は、BCリーグの新潟アルビレックスBCにある。 新潟の三条市出身の渡辺は、中越高から青山学院大に進んだが、公式戦で1試合も登板がなかった。プロから声がかかることもなく、地元枠で2013年に新潟アルビレックスBCに入団した。徐々に頭角をあらわして4年目のシーズンにリーグの最優秀防御率タイトルを獲得したところで、左のワンポイントとしてソフトバンクに評価され育成ドラフト6位で指名された。 「渡辺が勝つ」の一報は、その新潟アルビレックスBCの関係者にも届いた。この日、長野の小諸市でのBCリーグの試合を終え、バスで長岡市に移動途中にそのニュースがもたらされ車内に歓声が起きたという。 現在、同チーム監督の橋上秀樹氏は「渡辺はNPBを目指す選手に希望を与えてくれている存在」と言う。 「私とは入れ違いで、渡辺の新潟アルビレックス時代の話は伝え聞くだけだが、大学時代には活躍できていなかったのにここで成長してプロに行くまでになった。監督の方針に合わないとか、怪我とか、伸び悩んだとか、さまざまな理由で、アマ時代に結果を残せなかった選手に再チャンスが生まれ、NPBを目指せるのが独立リーグなんです」 アルビレックス出身のプロは、現在4人。日ハムの長谷川凌汰(26)、樋口龍之介(27)は、まだ育成契約のままで、支配下登録されているのは渡辺と横浜DeNAの知野直人(23)の2人だけだ。 新潟に住む渡辺の母親は、「息子が今プロの世界でやれているのは新潟アルビレックスのおかげです。恩返しをしてもしきれない」と、橋上氏に語り、今でもホームのほぼ全試合の応援に訪れて差し入れを持ってきてくれるという。 「独立リーグの選手はみんなハングリーですからね。食べるものが一番喜ばれることを知っていて、ミネラルウォーターや、ついこの前も唐揚げなどを差し入れしてくれました。渡辺がどれだけの地獄を見ても決してあきらめることなく頑張れたのは、いつまでも義理がたく恩を忘れないような優しい家族に支えられたからじゃないでしょうか」