なぜ阪神の“ミスター無失点”渡辺雄大は戦力外から30歳にして感動のプロ初勝利を手にできたのか…母が新潟で続ける“恩返し応援”
開幕以来10試合、打者26人に投げて1点も奪われていない。“ミスター無失点”。なぜ渡辺は打たれないのか。巨人、楽天、西武では参謀を務めた橋上氏は、渡辺が“ミスター無失点”である理由が、その独特の投球フォームと右打者対策にあると分析する。 「今のプロ野球では左へのワンポイントだけでは通用しません。右打者も抑えて1イニングを投げ切ることが重要で、渡辺は、ツーシームを覚えたことで、その右打者対策をクリアした。そして、あのサイドの独特の投球フォームは、左打者にしてみれば背中からボールが来る感覚になるし、同時に少し腕が遅れて出てくるのでタイミングがずれる。長身で手足が長いためリリースポイントも前にあり、いわゆるボールがラインに乗り、打者がコンタクトする瞬間に手元でボールが切れてくるので戸惑うのだと思う。初見ではタイミングを合わせるのは難しい」 橋上氏は、先日、阪急、オリックスOBで、阪神、楽天、日ハムでも投手コーチを務めた佐藤義則氏と話をする機会があり、「左投手は心臓に近い位置に腕があるから、無意識で腕が遅れるという体の使い方になり、サイドハンドとなると、それがさらに顕著な特徴として出る」という説を聞かされ、渡辺の活躍に納得したという。 矢野監督も「右バッターも最近ずっといい形で抑えてくれている。1イニングをなべ(渡辺)に任せていいんじゃないかというピッチングをしてくれている」と、右打者対策の成功が、防御率0.00につながっているという見方をしている。 開幕ダッシュに大失敗して2桁借金を抱える阪神が5連勝。ようやく波にのってきた。7回には佐藤、熊谷、近本の3人の神がかったような超ファインプレーで3つのアウトを取った。どん底を知る渡辺の人生をかけたピッチングが、瀕死状態だったチームに息を吹き込みつつある。渡辺はヒーローインタビューの最後でレフトスタンドの虎党に反撃を約束した。 「僕が30歳で初勝利したように、阪神タイガースもここから巻き返して優勝も決して無理ではないと思うので、一戦一戦頑張っていきたいと思います」 確かに今の阪神は渡辺の人生にも似ている。希望を失わずあきらめなければ、いつの日か、夢は叶うのかもしれない。