「ものすごくもうかった」時代から一転 全国1位の産地でキノコ生産企業倒産相次ぐ 専業化路線襲った誤算、コスト高も経営圧迫
トップ産地の長野県、今年に入り4社倒産
全国1位のキノコ産地の長野県で、経営に行き詰まるキノコ生産企業が相次いでいる。今年に入り4社の倒産が判明。生産に使う培地や電気代の高騰で、他の農産物と比べてもコストが増大している。一方、製品の安値が続き、借入金の返済が重くのしかかっている―との指摘もある。 【グラフ】主な農産物の生産コスト。キノコの上がり方が激しい
中野市と飯山市の企業、負債額も大きく
帝国データバンク長野支店などによると、4社のうち3社はエノキタケなどを生産していた中野市内の企業だ。悦和産業(負債約7億円)が2月に破産手続き開始決定を受け、マルヨ(同約13億5千万円)が4月に民事再生法の適用を申請。5月にはウインダム(同約6300万円)が破産手続き開始決定を受けた。 残る1社は、ブナシメジ栽培のホクサン(飯山市)。組合員向けに培地となるおがくずの共同仕入れを担った長野木糠(きぬか)事業協同組合(同)の関連会社で、負債額は合わせて約3億円に上る。
債務負担も重く
今月10日、悦和産業があった場所を訪ねると、工場が残っていた。破産管財人弁護士によると、同社は長くキノコ生産に携わり、2015年に法人化。16年には新工場を稼働して増収につなげ、20年5月期は3億円ほどを売り上げた。ただ、設立以来赤字が続き、設備投資の債務負担も重く、21年に事業停止した。 帝国データバンク長野支店によると、マルヨも長野市に工場を構えるなど設備投資に積極的だった。19年の台風19号で被災し、エノキタケの安値の影響も受け、事業を継続しながら再建を目指すことになった。
設備投資して増やした生産、追い付かなかった需要
農林水産省の22年の統計によると、県内ではエノキタケの全国生産量の6割弱に当たる7万4800トン、ブナシメジは4割余の5万1500トンを生産した。エノキタケで高いシェアを持つ中野市農協などの県農協グループや、ブナシメジ生産大手のホクト(長野市)などの存在感が大きい。
農家「平成の最初の頃までは…」
エノキタケは昭和30年代に人工栽培が普及し、その後の冷房設備の開発で通年栽培する農家が出現。当初は冬場の農閑期の副業として広がったが、通年栽培により専業化が進んだ。品目転換などでブナシメジ栽培も盛んになった。ブナシメジ栽培などを手がけた中野市の農家は「平成の最初の頃までは、ものすごくもうかった」と振り返る。 一方、東京都中央卸売市場の1キロ当たりの年平均価格を見ると、エノキタケは2000年代には300円前後を付けることが多かったが、17年は204円、19年は207円と低迷。ブナシメジも500円前後だったのが、22年に388円になるなど大幅に値下がりした。各社が設備投資などで生産を伸ばしたのに対して、需要が追い付かなかったのが一因とされる。キノコは近年、価格の安さから「物価の優等生」とも呼ばれる。
コスト高も経営圧迫
足元のコスト高も経営を圧迫している。全農県本部の試算で、23年度のエノキタケやブナシメジの1瓶当たりの生産コストは2年前に比べて1・35倍に上昇した。培地の他、電気代の値上がりの影響が大きい。 昨年以降、全農県本部やホクトで生産調整の動きもあり、両品目とも価格は改善傾向にある。中野市農協は「再生産(が可能な)価格をしっかりと確保できるような販売戦略を持って各取引先と商談を進める」とし、生産者の手取りを最優先に取り組んでいるとコメント。全農県本部は、需要が低下する夏場の生産を抑えるなど、計画生産で価格改善を図っているとした。