“買収するだけ”では企業価値は上がらない…経営コンサルが教える〈成果を出すM&A〉の定石【チェックリスト付き】
今やM&Aは、上場企業のみならず中堅・中小企業も活用している経営手法ですが、実行前に想定していたシナリオと異なる結果になる事例が少なくありません。100件以上のM&Aコンサルに携わってきた丹尾渉氏は、「戦略なきM&Aは失敗する」と断言します。同氏の著書『M&A成長戦略』(監修:株式会社タナベコンサルティング 戦略総合研究所、ダイヤモンド社)より一部を抜粋し、企業価値を高めるためのM&Aの手順を見ていきましょう。
企業価値を高める「戦略×成長M&A」
「戦略×成長M&A」とは、「戦略なきM&Aは失敗する」ことを表現するため、筆者らが創り出した用語である。中長期ビジョンの策定だけで企業価値を高めることはできない。一方で、やみくもにM&Aを実行してしまうと失敗につながる。戦略と成長M&Aのどちらか一方が欠ければ、成果は「ゼロ」である。M&Aを実行する上での指針となる戦略と、それに基づく「成長M&A」をシームレスにつなぐことが求められる。 「戦略×成長M&A」は、自社の中長期ビジョン実現のために、企業買収の目的と具体的な候補企業を明確化し、積極的に仕掛け(提案)を行うとともに、それに基づいたM&Aの実行策を組み合わせた一連の流れを指す。譲受側は、この「戦略×成長M&A」を軸にM&Aを展開することで、さまざまな変化をマネジメントし、企業価値を高めていくことにつながる。次に、そのステップを示す。
【ステップ(1)】M&Aの成長戦略を策定
自社の現状の経営資源を前提に戦略を組み立てようとすると、現在の事業の延長線上で何ができるかという思考になりがちである。だが、M&Aでは「現状の経営資源という制約条件を外し、中長期的に自社はどういう姿になりたいか」という思考で戦略を立てるべきである。中長期ビジョンを明確化すれば、そのビジョンの実現のためにどのような経営資源が必要で、そのうち外部から「何を調達するか」(M&Aの目的)が、M&Aの戦略策定では重要な検討事項となる。ここがはっきりしないと、自社のM&Aが成功したかどうかさえわからなくなる。