医師不足で「無医地区」増加…地域医療守るカギは「総合診療医」 “医師の偏在”問題解決に向けた公立病院の取り組み
少子高齢化に伴って医師の需要が高まる中、深刻な医師不足が続いている。その背景には、医師の数自体が不足していることに加え、地域や診療科によって医師の数に偏りがある“偏在”の問題があると指摘されている。 【画像】島根県・鳥取県の医師の数(2022年時点) こうした中、様々な工夫で医師を確保し、地域医療を守ろうと取り組む島根・邑南町の公立病院を取材した。
地区唯一の診療所が閉院
島根・邑南町の公立邑智病院附属市木診療所は、人口400人ほどの市木地区にとって唯一の診療所で、取材に訪れた日も、約2時間の診療時間内に途切れることなく患者が訪れていた。 この診療所は、元々40年以上にわたって診療を続けてきた地区唯一の民間病院だったが、院長が高齢になったことを理由に2024年9月末に閉院した。 「かかりつけ医だったので、閉院すると聞いて、今までの安心がなくなり大変だなと思った」と住民から不安の声も聞かれる中、院長や住民の要望を受けて、10月1日から邑智病院が附属診療所として引き継いだ。 閉院することでこの地域は、一定以上の人が住んでいながら医師がいない地域「無医地区」になり、最寄りの病院まで約10kmという高齢の住民にとっては不安を感じずにはいられない状況に陥るところだった。
附属化で医療の充実へ
民間病院を公立病院が引き継いだ今回のケースについて、邑智病院の山口清次院長は「医療を守るという使命がある。簡単に無医地区にするわけにいかない」と考え、附属診療所という形で維持することを決断したという。 邑智病院は、邑南町など邑智郡の3つの町が運営する地域の拠点病院で、年間延べ約5万人が受診し、24時間体制で救急患者を受け入れる二次救急医療機関にも指定されている。 市木診療所には月曜・水曜・金曜の週3日、医師と看護師や医療スタッフが派遣され、診療を続けている。 患者の1人は「閉院はちょっと困るなと思っていたが、邑智病院の附属になると聞いて安心した」と話し、引き続き地区内で医療が受けられることに安心した表情を見せた。 また、附属診療所になったことで、患者は邑智病院が持つ高度な検査装置を利用できるほか、電子カルテが共有され邑智病院との連携もスムーズになるなど、医療の充実にもつながった。 山口院長は「全国各地で抱えている『へき地医療』の問題解決のモデルになるのではないかと思っている。それだけに失敗は許されない」と話した。