「赤ちゃんポスト」第1号の宮津航一さんと里親夫妻の16年。実名で「ゆりかご」出身者であることを明かした理由
その後、美光さんは少年の自立支援のためのNPO法人「シティエンジェルスくまもと」を立ち上げ、高校を中退してぶらぶらしている少年らを見つけては声をかけ、洗車の仕事を勧める。1台500円だが、お金を稼ぐことによって少しでも安定した生活を送り、生活のリズムを整え、人に感謝される体験を重ねるという試みだった。 夏休み終わりのある日、3人の少年がお好み焼き店を訪れた。美光さんは彼らと交流するうちに、その中の1人が《ホームレス》であることを知る。 母親が精神的な病を抱え、彼は公園で寝泊まりしていたのだった。思わず美光さんは、「泊まっていけ」と伝えた。最初は躊躇していたその子も、やがて働きながら宮津家で暮らすようになる。 当初みどりさんは、美光さんのように無条件で彼を受け入れることができなかったという。 「対立もありました。こっちはよかれと思っていろいろ声をかけるのですが、向こうはそうは捉えずに喧嘩になったり、どうしてわかってくれないのと涙が出たこともあります。おせっかいというか、善意の押し売りだったのでしょうね。育ってきた環境が違うから価値観も違う。まずはその子どものありのままを受け入れることが大切だと感じました。この経験は後に里親になった時、生かされました」(みどりさん) 結局彼は4年間同居し、その後就職して自立していった。時が過ぎてもどうしているかと気にかけている。 (撮影=本誌編集部)
樋田敦子