大阪万博はどう考える? 愛知万博跡地にみる “万博がもたらすもの”
開催地は「住みよい街」へ
開催地の長久手は、万博会場へのアクセスとなったリニアモーターカー「リニモ」沿線を中心に開発が進み、2012年には人口5万人を突破して市制に移行。快適度や利便性の高い「住みよい街」として全国ランキングの上位に名が挙げられるようになりました。この秋には大型家具店「IKEA長久手」がオープンする予定です。 これは当初のニュータウン開発が中止された代わりに、長久手周辺に住宅や商業地が集積、ほどよい「コンパクトシティ」が生まれたとも考えられます。ただ、そうした状況も少子高齢化や人口の流動化でいつまで続くかは分かりません。吉田一平市長は2年前の筆者とのインタビューで「今の豊かさの指標とは違うモノサシが必要。『快適さ』と反しても、互いに助け合って、古里の森を残せるまちにしたい」と述べていました。そうした考えも、実は本来の万博の理念だったのかもしれません。 「モリコロパーク」は市内外から訪れる人でいつも賑わうようになりました。「サツキとメイの家」の入場は予約制ですが、今も休日は予約が取りにくい人気ぶり。2010年には多目的施設「地球市民交流センター」、13年には里山づくり活動の拠点「あいちサトラボ」なども整備され、環境学習やイベントに活用されています。運営には万博開催時からボランティアの市民らが積極的に関わっており、そうした市民参加型の親しみやすさが「ジブリパーク」構想にも結びついたといえるでしょう。
基金やソフト面で課題も
市民に対しては、万博の剰余金を基にNPOやNGOの事業を支援する助成金制度が設けられました。愛知県が主体となって管理する「あいちモリコロ基金」は2007年度から毎年100件以上の事業に1億数千万円ずつを助成してきました。 しかし、その運用は10年間をめどにすると決められていて、基金は2018年度で終了する予定です。その後を「継承」するべく、新しい基金の制度やあり方をめぐって地元で議論が続けられています。 他にも万博の入場券と連動し、環境活動をするとポイントがたまってエコ商品と交換などができる「EXPOエコマネー」などの実験的な事業もありました。現在のさまざまなポイント制度の先駆けでもあり、一部では形を変えて続けられていますが、10年を越えてどう関心や仕組みを維持するのかが課題です。 愛知万博はハード面ではもともと抑制的だったため、大きな「負の遺産」と呼ぶべきものは見当たりません。むしろ、まちづくりや人材育成などのソフト面で、この先の展開が問われているといえるでしょう。 大阪もぜひこうした観点から先を見越して、今後の招致活動に臨むべきなのではないでしょうか。 ---------- ■関口威人(せきぐち・たけと) 1973年、横浜市生まれ。中日新聞記者を経て2008年からフリー。環境や防災、地域経済などのテーマで雑誌やウェブに寄稿、名古屋で環境専門フリーペーパー「Risa(リサ)」の編集長も務める。本サイトでは「Newzdrive」の屋号で執筆