【オートレース】あくまで自然体で。高橋絵莉子のスタイル~伊勢崎G1シルクカップ
◆第48回シルクカップ(G1、9日・初日、伊勢崎オートレース場) 昨年12月27日だった。第6回目を数えたスーパースターガールズ王座決定戦(川口)が争われ、2017年デビューの33期生、高橋絵莉子が最後の最後で鋭いさばき芸を披露して1着ゴールを決めた。ずっと目標に掲げていた女王の座をついに射止めてみせた。 「あの1着は本当にうれしかったあ~。レース中盤は厳しいかなあって思っていましたが、最後は本当にうまく伊東玲衣ちゃんを抜くことができました。レース後はレイちゃんから“コンチクショ~”って笑顔で祝福してもらいました。もう、最高のコンチクショ~をいただいちゃいました(笑)」 家族の影響で小さい頃からモトクロス競技を戦っていた。温厚でのんびり、まったりした平和主義の性格はタフに勝ち負けを争う競技に必ずしも適しているとは言いがたいが「バイクに乗ることは大好きだったので」という志望動機で、この世界の門をノックした。 当時は、まだ女子選手の総人数は数人程度だった。2011年にあの佐藤摩弥がデビュー。業界44年ぶりとなる女子レーサー誕生となった。その2年後に32期生がデビューし、さらに17年に高橋が属する33期生が選手生活を開始した。 「私が選手になった頃は、まだまだ女子選手が少なくて、マヤさんや先輩たちのすごい働きぶりを見ていたら、ああ、私にはできないかも…と思ってしまいました。最初の頃は戸惑いもありましたし、どうなっちゃうんだろうと不安ばかりでしたが…」 しかし、その後、2019年には34期生、2021年に35期生が続々とデビューを果たし、現在は昨年デビューの37期生を含め、総勢22人にも所帯は増えた。 「私にとっても後輩が増えてきたことが大きな転機になりました。下がどんどん入ってくると、すごくにぎやかになりますし、みんなで仲良く働けています。特に同じ伊勢崎の後輩には新井日和がいます。彼女はすごいっ! とにかくよく仕事をするし、たくさん練習をこなしています。そういう頑張っている後輩の姿を見ていると、よ~し、先輩にも意地があるぞ! と燃えてきちゃいます。同期の田崎萌ちゃんとずっと一緒にやって来ることができたことも、自分にとっては大きな支えになりました」 高橋が一目も二目も置く新井日和や同じく後輩に当たる伊東玲衣や小椋華恋は、まさに男子顔負けのド根性むき出しの闘争心で一流どころに立ち向かっている。大先輩の偉大なる佐藤摩弥は、もはや言わずもがなである。でも、「業界のトップに立ってやる」という熱量ムンムンの姿勢が選手全員に完全フィットするとは限らない。 あくまでも、そこは人それぞれ。闘争心をたぎらせる者がいれば、淡々と自分のペースで技量を募らせ続ける者もいる。高橋は後者である。 勝っても、負けても、あくまで淡々と。ムダに感情の振幅を上下へ乱高下することなく、フラットな気持ちと立ち回りで、このえぐい世界を生き残っている。「そこは周りのペースに乱されることなくやって行きたいです。ここは厳しい勝負の世界ですが、それでも自分に合ったスタイルで、これからも仕事を続けていきたいです」 人生、仕事一本! という姿は潔い。きっと、ファンの目にも好印象で映ることだろう。でも、高橋は仕事だけでなく、人生すべてを存分に楽しみ、味わうセンスと人間としての懐深さがある。旅行や釣りが大好きでアウトドア派かと思えば自宅にこもって絵を描いたり、料理に時間を割いたりインドアでも多芸を誇っている。「本当にファンのみなさんのお陰で毎日を楽しく過ごすことができています。これからも私は私らしく走って、少しでもファンの方に何かを還元できるよう働いていこうと思っています」 これからオートレーサーを志そうとしている若きガールズたちへ。必ずしも自分の人生のすべて以上を吐き出す覚悟がなければ、願書にペンを走らせてはいけないなんてことは絶対にありません。己の人生をより彩り深きものにする重要なアイテムのひとつとして、オートレーサーという職業選択があっていい。 それを高橋絵莉子は証明してみせた。どの女子レーサーにも負けないぐらい、ロッカーとコースで見かける高橋はキラッキラに輝きまくっている。 (淡路 哲雄)
報知新聞社