最先端ITで“ワン日立”…IoT基盤「ルマーダ」進化で快走にアクセル
鉄道設備保守で好事例
日立製作所が独自のIoT(モノのインターネット)技術基盤「ルマーダ」のサービスを開始して2025年で9年目に入る。日立を象徴し、業績をけん引するデジタルサービスとして年々存在感を増しており、25年3月期には連結売上高に占めるルマーダ事業の割合は30%まで伸びる。生成人工知能(AI)の導入推進や米エヌビディアとの協業などにより、さらなる導入拡大を見据えており、日立の快走にアクセルがかかる。(編集委員・小川淳) 【写真】日立がエヌビディアと開発した鉄道用AIソリューション「HMAX」 「(ルマーダは)これまでにスケール(事業規模などの拡大)するのか聞かれることもあったが、やはり『HMAX(エイチマックス)』のような具体例が出てくると、本当に違ってくる」。日立製作所を今年の4月から社長兼最高経営責任者(CEO)として率いるデジタル分野を統括する徳永俊昭副社長は、ルマーダ事業についてこう語る。 HMAXは日立がエヌビディアと組み、24年9月に本格展開を発表した鉄道事業者向けの保守ソリューションサービスだ。鉄道車両にカメラやセンサーなどを搭載して走行することで、車両やレール、架線などのインフラの状態を効率的にデータ収集。エヌビディアの強力な画像処理半導体(GPU)を用い、情報を分析する。AIの学習効果で、従来は感知できなかった異常を発見するなど、鉄道保守の効率化が期待できる。 日立のデジタル事業と鉄道事業を組み合わせ、さらに外部の有力パートナー企業と協業したルマーダを代表する事例だと言える。
ITと融合 サービス領域拡大
日立はルマーダのサービスを16年5月に発表した。IT・デジタル技術を生かし、日立の得意とする制御技術(OT)と、プロダクト(設備機器)とを結びつけ、従来の製品の売りきりのビジネスモデルから、ソリューション提案による社会イノベーション事業へと大きくかじを切ることを決めた最中のことだ。 当時、東原敏昭社長(現会長)はルマーダを中核にデジタルや鉄道、送配電、昇降機などの主力事業をつなぎ「“ワン日立”でソリューション力を高める」と強調していた。折からの大胆な事業構造改革中の出来事であり、生まれ変わった日立を象徴する新サービスの位置付けだった。 ルマーダは当初は社内外でのイメージ浸透やサービスの具体化に苦慮していたが、徐々に事業割合を向上していった。鉄道のほか金融サービス、空調、昇降機などさまざまな領域にサービスが広がる。25年3月期の連結売上高でルマーダ事業が占める割合は全体の30%まで成長すると予想。前期比では割合が3ポイント増加する。また、調整後EBITA(利払い・税引き・一部償却前利益)に占める割合は前期比2ポイント増の41%とさらに比率が高い。 ルマーダは「ソリューションのショーケース」でもあり、事例が増えれば増えるほど、顧客のために開発したソリューションが別の顧客にも並行展開しやすいという特徴を持つ。このため利益率の向上につながり安く、「ルマーダ事業の拡大が日立全体の成長をけん引する」(小島啓二社長)という好循環を生み出す。 ここに生成AIという新しい技術が加わる。日立は24年6月、米マイクロソフト(MS)との戦略提携を発表。MSの生成AI技術をルマーダに組み込むなどして、顧客の業務効率化につなげていく。今後3年間で数十億ドル(数千億円)規模の協業を見込む。 生成AIの活用では25年3月までに3000億円を投資し、AI人材の育成やデータセンター(DC)の整備などを進める方針も掲げている。小島社長は生成AIについて「IT活用の歴史を紀元前・紀元後と分けるような、巨大なインパクトを持つブレークスルー」と高く評価しており、ルマーダとの融合も積極的に進めていく構えだ。 日立は4月、新経営体制となり、徳永副社長が社長兼CEOに就任する。「デジタル事業の申し子」と小島社長が評価するなど、徳永副社長は90年の入社以来、IT・デジタル分野に深く関わってきた。また、21年に当時約1兆円で米IT大手のグローバルロジックの買収を主導し、日立のデジタルシフトをさらに加速させた。 徳永副社長は24年12月の就任会見で、25年4月から始まる新しい中期経営計画について「デジタルを核に真の“ワン日立”を実現し、社会イノベーション事業のグローバルリーダーを目指す歩みを加速する」とした上で、そのためにも「ルマーダをより進化させる」と強調する。ルマーダの姿は25年も変わり続ける。