なぜモーグルの堀島行真は予選の危機を乗り越え”涙の銅メダル”を獲得することができたのか…「あきらめたらダメ」
呪縛から解き放たれた安心感からか。インタビューの合間に堀島は思わず瞳を潤ませている。それでも前回平昌大会のように金メダル候補のプレッシャーに押し潰されなかったのは、この4年間でさまざまな経験を積み重ねてきたからだろう。 まずは平昌五輪までの自分を性格が真面目すぎるがゆえに、すべての面で余裕がなくなっていたと位置づけた。その上で大好きなモーグルを心の底から楽しみ、さらに極めていくために、練習の合間に未経験だった他のスポーツに挑戦した。 同じ雪上スポーツのスノーボードにはじまり、水泳の飛び込みや「走る、跳ぶ、登る」といった動作を通じて心身を鍛えるパルクールに挑戦。昨年の夏にはフィギュアスケートと体操にも取り組んだが、この2競技には明確な狙いが込められていた。 今大会で3連覇を目指すフィギュアスケートの羽生結弦と、1月に引退を表明した体操の内村航平さんを特にリスペクトしてきた。技を追い求める前者の崇高な姿勢を、着地を極めんとした後者のこだわりを、自分も倣いたいと思ったからだ。 未知の競技はもちろんハードルが高い。それでも無我夢中になって挑戦する過程が楽しさを感じさせ、モーグルにも生かせるかもしれない、という好奇心すら芽生えさせた。回り道に映るようで実は心技体を、特に「心」を鍛える上で不可欠な挑戦であり、一瞬ながらあきらめかけた決勝3回目のピンチを乗り越えさせた原動力になった。 もっとも時間の経過とともに、安堵の思いに心残りが加わってくる。今大会限りでモーグルを引退し、競輪一本に絞る同じ1997年生まれの原とは対照的に、まだまだモーグルを極めていく堀島はテレビインタビューの最後にこんな言葉を紡いでいる。 「本当の夢は金メダルなので、またここから競技を頑張りたいと思います」 表彰台に上がった3人のエア点はほぼ差がなかった。その上でキングズベリーをスピード点で上回りながらターン点で2.2差をつけられ、スタートから積極果敢に攻め抜いたバルベリにはスピード点とターン点の両方で後塵を拝した。 どんなコースでもスピード、エア、そして最も重視され、得点の60%を占めるターンのすべてを追い求めていく。2分あまりのインタビューで7度も「ありがとうございます」と周囲へ感謝の思いを捧げた堀島は、課題を伸びしろと位置づけながら、ミラノとコルティーナ・ダンペッツオで共同開催される4年後の次回五輪へ精進を重ねていく。