経営者が持っている「借金返せ」のトラウマ体験…上念司が考える日本企業に“内部留保”が増加した理由
コロナや戦争で本格的なインフレに
このように、黒田日銀は大変頑張りましたが、バブル崩壊のトラウマを完全に払拭するまでには至らず、日銀は物価目標を安定的に達成できない状態でした。 ここに襲ったのがコロナショックであり、そのあとのロシアによるウクライナ侵略という戦争ショックです。 物流の混乱やエネルギー価格の高騰により、サプライチェーンにショックが走りました。 コロナショックで全世界的な金融緩和によってお金が溢れているときに、戦争によって国 際商品市況が高騰。お金が余って、モノが足らないという典型的なインフレモードが本格 的に始まったのでした。 さすがに、この波を被った日本人も目を覚ました。もはやデフレを心配している場合じゃない! 2022年ついに日銀は生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価指数(コアコアCPI)でも物価目標である2%を達成したのです。
まともに解除された金融緩和
しかし、日銀はここでいきなり金融引き締めに走ることはしませんでした。金融緩和を止めても物価が安定的に2%以上で推移することができるかどうか1年以上かけて慎重に検討したのです。 そして、2024年3月19日の政策決定会合でマイナス金利解除とイールドカーブコントロール撤廃が決定されました。約四半世紀の年を経て、ついに量的緩和政策が出口を迎えたわけです。 とはいえ、このタイミングで金融緩和を解除したことにはさまざまな批判がありました。 3月では早すぎるとか、焦っているとか、まだデフレ状態だとか…しかし、どの批判もいま一つ説得力に欠けます。 たとえば、金融緩和の解除を急ぎすぎるとデフレに戻るリスクがあると批判する人がいます。たしかにデフレに戻る可能性はゼロではないでしょう。 しかし、それは一体何か月後に何%の確率で発生するのでしょうか? 日本が破産すると警鐘を鳴らし続けている人に、私はこれと同じ質問をしていました。 そして、そんなに破産する可能性が高いならあなたの持っている日本円は紙くずだから私 がもらってあげましょうと言っておりました。典型的なゼロリスク信仰、経済評論として は0点です。 上念司 1969年、東京都生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。在学中は創立1901年の日本最古の弁論部・辞達学会に所属。日本長期信用銀行、臨海セミナーを経て独立。2007年、経済評論家・勝間和代氏と株式会社「監査と分析」を設立。取締役・共同事業パートナーに就任(現在は代表取締役)。2010年、米国イェール大学経済学部の浜田宏一教授に師事し、薫陶を受ける。金融、財政、外交、防衛問題に精通し、積極的な評論、著述活動を展開している。
上念司