コロナ最前線で治療に当たった感染症専門医・岡 秀昭教授、SNS誹謗中傷との死闘の400日
■なぜここまで頑張れるの? コロナ禍では岡教授以外にも、多くの医師や研究者、国の専門家会議のメンバーといった専門家がネット上での悪質な誹謗中傷や殺害予告などの脅迫に遭ってきた。 「叩いても、叩いても」、いや、むしろ「叩けば、叩くほど」まるでゾンビのように次々と湧いてくる、執拗で悪質なSNS上の誹謗中傷に対し、なぜ岡教授は膨大な労力を使ってまで徹底抗戦の態度を貫き続けるのか? 「よく『賠償金目当ての小遣い稼ぎではないのか?』という批判を受けます。しかし、これは完全なる誤解です。弁護士に依頼して、裁判所に発信者情報開示命令を出してもらい、特定されたアカウントとの示談交渉をするだけでも弁護士費用などを含め、かなりのお金が必要なので、たとえ賠償金を得られたとしても、1、2件の請求だと赤字になります。 私の場合、約60件の開示請求をまとめて行なったため、今のところ赤字にはなっていませんが、示談が成立しなかったケースについては、今後の訴訟費用も必要ですし、その間の労力や、心的なストレスの大きさを考えれば、とうてい割が合う話ではないと思います。示談金をお小遣いだとは思えません。 それでも、私が泣き寝入りせず、こうして闘い続けているのは、この先、次の時代を担ってゆく若い感染症専門医たちに、自分と同じような思いをしてほしくないからです。 私は街の小さな酒屋の息子として生まれ、高校3年生のときに父をがんで失いました。それがきっかけで、医師を目指しました。 医学部に入った当初は外科医を志していたのですが、まるで職人の徒弟制度のような外科の雰囲気になじめず、専門を血液内科に変更。 そこで、"血液のがん"と呼ばれる白血病の患者さんに多く接する中で、抗がん剤治療で白血病が治っても、免疫低下による感染症で亡くなる方が多いことを知りました。そして、独学で感染症の勉強を始めたところ、当時の日本の医学界に感染症の専門家がほとんどいないということを知ったんです」 その後、岡教授は横浜市立大学大学院を経て、ちょうどその頃、神戸大学で本格的な感染症専門医の養成をし始めようとしていた岩田健太郎教授の下で、感染症専門医としての研鑽を重ね、東京高輪病院感染症内科部長などを経て、2017年に埼玉医科大学総合医療センターに着任。 そのわずか3年後の春に、日本で新型コロナの大流行が始まると、同病院の駐車場スペースに特設されたコロナ専門病棟の責任者として、臨床の現場の最前線で新型コロナ患者の治療に当たってきた。