アンダーワールド、絶対に知っておきたい名曲10選
「Rez」(『Rez / Cowgirl』収録:1993年)
アンダーワールドのロマンティックな側面をもっとも美しく結晶化させた歴史的名曲。言うまでもなくこの曲の最大の魅力は、夜空に瞬く無数の星のように明滅するシンセのフレーズ。基本的にGだけのシンプルなベースラインに対し、シンセサイザーに搭載されたフィルターの一種、レゾナンスを上げて生み出される揺らぎが幻想的な上モノは、セカンド・サマー・オブ・ラブの多幸感や祝祭感を息を飲むような美しさで捉えている(曲名の由来はレゾナンス、resonanceだと言われている)。そしてそこに初期アンダーワールド特有のややトランシーなビートが絡んできたとき、あなたは無限のエクスタシーに包まれることになるだろう。 ただリック・スミスも言うように、「Rez」は決して時流に乗った曲ではなかった。リリースは1993年。当時は既にアシッド・ハウスやセカンド・サマー・オブ・ラブの熱狂は過ぎ去っていた。つまりここで鳴らされているのは、もはや失われてしまった時代の幸福な記憶なのである。それゆえに、この曲はどこか切なく物悲しい。 産業が要請するスターシステムを否定し、ジャンルやトライブを越えて異なる人々をひとつにする――そうしたセカンド・サマー・オブ・ラブの精神は、音楽産業に幻滅してクラブカルチャーに飛び込んできたアンダーワールドを大いに感化した。だがその美しい理想を掲げたムーブメントは過ぎ去ってしまった。自分たちのアイデンティティの足場を失ったことで、彼らの心にぽっかりと穴が空いただろうことは想像に難しくない。その喪失感は決して癒えることはないだろう。だが少なくとも、この曲が鳴っている間だけは当時の輝かしい理想は人々に思い出される。狂おしく胸を締めつけるようなこのシンセのフレーズがアンダーワールドのライブで演奏されるたびに、セカンド・サマー・オブ・ラブの幸せな記憶は時空を超え、何度でも私たちの前に蘇るのだ。
「Cowgirl」(『Rez / Cowgirl』収録:1993年)
最初は「Rez」とのカップリングで12インチシングルとしてリリースされた「Cowgirl」は、「Rez」の姉妹曲であることが一聴してわかるだろう。ベースラインや特徴的なシンセのフレーズは明らかに「Rez」を基盤にしている。カール・ハイドが言うには、最初に生まれたのは「Rez」。そしてインストの「Rez」で歌いたいというカールの要望を受け、リックが「Rez」を発展させる形で生み出したトラックが「Cowgirl」だという。昔からライブではこの2曲がメドレー形式で披露されるが、それは曲の成り立ちからしても理に適っているということだ。 やはりこの曲の白眉はカールの歌である。リックもお気に入りだという「僕は誰も傷つけない(I’m hurting no one)」から始まる一連のフレーズは、この曲の精神を余すことなく捉えている。「僕は誰も傷つけない/僕は君にすべてを与えたい/僕は君にエナジーを与えたい/僕は君にいいことをしてあげたい/僕は君にすべてを与えたい」――字面だけ追えば、これはシンプルにラブソングだと解釈することも可能だ。しかしユーフォリックなハウストラックに乗せてこのフレーズをカールが歌うとき、そこには別の意味合いも立ち上がってくる。 「Rez」はセカンド・サマー・オブ・ラブの幸福な記憶に対する郷愁だと書いたが、「Cowgirl」のリリックは人々がトライブの壁を越えて笑顔で手を取り合った当時の精神を言葉で見事に切り取ったものだ。上で引用したリリックに込められているのは、隣の他者に対するリスペクトと愛情。当時のクラバーたちの思想がここでは極めて簡潔に表現されている。そしてカールがこの曲をライブで歌い続けることによって、アンダーワールドがリアルタイムで体験したセカンド・サマー・オブ・ラブの時代精神は、次の世代へと、またその次の世代へと伝播していくのである。