アンダーワールド、絶対に知っておきたい名曲10選
「Pearl’s Girl」(『Second Toughest In The Infants』収録:1996年)
アンダーワールドの代名詞と言えば、何種類かの音色のキックを重ねて作られた図太い4つ打ち。そのどっしりと安定した四分音符のビートを基盤に、その倍やさらに倍で感じられるパーカッションや、リズミックにエディットされたカール・ハイドの歌声などを緻密に重ねることによって、パワフルだが軽やかなグルーヴを生み出すのがリック・スミスの定石となっている手法のひとつだ。 しかし「Pearl’s Girl」でのリックは珍しく4つ打ちから離れ、ドラムンベースのフィールを掴もうとしている。この曲と、この曲が収録された『Second Toughest In The Infants』がリリースされたのは1996年。前年にはゴールディの『Timeless』が送り出されるなど、まさにジャングル/ドラムンベースがメインストリームへと侵攻を始めたタイミングだった。 ダンプカーのように猛進するブレイクビーツに、細切れになったスネアが複雑にレイヤーされた荒々しいビート。そこにヘリコプターのプロペラが風を切る爆音を耳元で聴いているようなシンセベースが重なることで、不穏な空気と緊張感が流れる。そして4分半辺りからガラスのように透き通ったシンセのシークエンスが始まると、そこには緊張(せわしないベースとドラム)と解放(ロングトーンで奏でられるゆったりとしたシンセ)の両極に私たちを引き裂くような混沌としたエネルギーが生まれるのを感じるだろう。カール・ハイドの歌は「リオハ、リオハ、尊敬すべきアル・グリーン」という最初のラインも鮮烈で素晴らしいが、「老いぼれたアインシュタイン、屋根裏で気が触れている」という一節がこの曲が持つカオティックなエネルギーを何より的確に捉えている。
「Kittens」(『Beaucoup Fish』収録:1999年)
80年代はヒットに恵まれず、生き馬の目を抜く音楽産業に疲弊していたアンダーワールドは、90年代に入ると産業の外側でDIYの健全なシーンを形成していたレイヴカルチャーに自分たちの居場所を見つけた。カール・ハイドが何度も強調しているように、彼らにとってクラブミュージックとの出会いは音楽的ヒントだけでなく、アイデンティティの拠りどころも与えたのだ。だからこそ「Born Slippy (Nuxx)」が大ヒットし、“新時代のスタジアムバンド”として産業の期待が一身に集まるようになったことは、彼らにとって皮肉でしかなかった。そしてそんな“「Born Slippy (Nuxx)」以降”の甚大なストレスがかかっている状況下でリリースされたのが、5作目『Beaucoup Fish』(1999年)である。 所属レーベルのJBOごとメジャーに買収され、「もっとポップに、もっとビッグに、もっとアンセミックに」という期待が重くのしかかる中、『Beaucoup Fish』は膨れ上がった産業の欲望から距離を取るかのように緻密で端正なテクノを聴かせる。全体的なフィーリングとしては少しばかりピリピリとした緊張感があり、音の感触としてはハードでアグレッシブだ。 「Kittens」はそんな時代のアンダーワールドを象徴する強烈なノイズとビートで形作られたトラック。執拗に繰り返される硬質で重たいドラムと単調で短いシンセ音のループからはハードミニマル/ハードテクノの反響も感じられるだろう。だが、3分18秒から始まるメロディックなシンセのリフはアンダーワールドならでは。まるで60年代サイケデリックロックのギターソロをシンセに置き換えたような、陶酔的だが狂気と混沌を孕んでいる美しいリフは、この曲を特別な存在へと押し上げている。