アンダーワールド、絶対に知っておきたい名曲10選
「denver luna」(『denver luna』収録:2023年)
ここ最近のアンダーワールドのシングルで注目すべきは「and the colour red」だけではない。ハウスプロデューサーのケッタマとのコラボで発表された「Fen Violet」もピアノのリフが強烈なレイヴチューンだし、まだライブでしか披露されていない未発表の新曲「strawberry hotel」「gene pool」もオーディエンスショットで確認する限り期待できる。だが今もっともファンを騒がせている新曲と言えば「denver luna」になるだろう。 この曲を聴いた人たちの反応は興味深い。なぜなら、ある人は「ここには『Cowgirl』のヴァイブが宿っている」と言い、またある人は「いや、自分は『Moaner』を思い出す」と言い始める。英国メディアのThe Guardianに至っては「この曲には『Born Slippy』の反響がある」と認める始末だ。錚々たる名曲の名前が並び過ぎて逆に腰が引けるかもしれないが、要するにこの曲にはクラシックなアンダーワールドのエナジーが宿っているということだ。ちなみにネット上で見かけるファンの声で一番多いのが「Cowgirl」みたいだという意見。しかし筆者としては、「Born Slippy」のマントラのようなキックとボーカルに「Moaner」のダークなエッジを掛け合わせたように聴こえる。5分過ぎのブレイクから始まる、幾層にも重ねられたカールのボーカルが生み出す空高く舞い上がるような高揚感が至福だ。 なお、この曲にはケッタマによる再解釈バージョン「G-Town Euphoria (Luna)」も存在する。原曲のボーカルを活かしながらも、さらにアグレッシブなレイヴチューンへと生まれ変わっているこちらも必聴。
「King of Snake」(『Beaucoup Fish』収録:1999年)
ジョルジオ・モロダーが発明したドナ・サマー「I Feel Love」の波打つような催眠的ベースラインは、これまで何度ポップミュージックの世界で援用されてきたことだろうか。リリース当時、ブライアン・イーノがデヴィッド・ボウイに「この曲が今後15年間のクラブミュージックを変える」と言い放ったのは有名な話だが、実際は発表から50年近く経ってもその影響力は衰えを知らない。そしてご存じの通り、アンダーワールドもまたこの曲の特別な魅力に取り憑かれたアーティストの一組である。 「King of Snake」はあのベースラインをより高速に、よりノイジーに打ち鳴らす。そしてそこに絡んでくるのは粘り気のあるディスコビートではなく、直線的に叩きつけるようなキックと甲高く金属的なパーカッション。この曲は「I Feel Love」のインダストリアルバージョンと呼んでもいい。2分52秒から挿入されるピアノのリフは、これがハウスの時代を通過した産物であることを思い出させる。英クラブ音楽雑誌Musikは「King of Snake」を「ジョルジオ・モロダーと(NYハウスの巨星)トッド・テリーを繋ぐ曲」と評したが、筆者であればそこにハードミニマルの発火点デイヴ・クラークの名前も付け加えるだろう。