アンダーワールド、絶対に知っておきたい名曲10選
「Two Months Off」(『A Hundred Days Off』収録:2022年)
通算6作目となる『A Hundred Days Off』(2002年)は、ある種の緊張感をもってファンから迎えられた。というのも、同作はダレン・エマーソン脱退後初のアルバム。クラブカルチャーのヴァイブをアンダーワールドに持ち込み、“第二期”の成功に多大な貢献を果たしたダレン抜きで、アンダーワールドは本当に大丈夫なのか? そんな一抹の不安を誰もが抱かずにいられなかったからだ。 しかしそんな心配を溶解させ、私たちを安堵させると同時に、果てしない恍惚へといざなってみせたのが、アンダーワールド中期の名曲「Two Month Off」である。少しばかりダークなアシッドトラックとして幕を開けるが、やがてキラキラと輝く光の粒子のようなシンセのシークエンスが舞い降りてくる。そして徐々にフェードインしてくる、フレンチタッチにも似た、2小節のループで構成された高揚感に溢れるリフ。これだけでも至福だが、そこにカールが歌う「君が光をもたらすんだ(You bring light in)」というリフレインが飛び込んでくると、まるで視界いっぱいにまばゆい光が広がっていくような多幸感に包まれるだろう。極めつけは、最後のブレイクでカウベルが連打される躍動的なリズムに突入することだ。ここでダメ押しとばかりに、もう一段上の恍惚へと私たちを導いていく。 『dubnobass~』と、それ続く『Second Toughest In The Infants』(1996年)は、暗い路地裏に一寸の光が差し込んでくるようなロマンが最大の魅力だった。だが「Two Month Off」での彼らは、ひたすらにまぶしい光を追い求めている。アンダーワールドのディスコグラフィの中でも、もっとも真っ直ぐにポジティブなフィーリングを捉えた曲のひとつだろう。
「and the colour red」(『and the colour red』収録:2023年)
一体ここ最近のアンダーワールドに何が起きているというのだろうか? 2010年代以降の彼らは、少しずつ枯れた味わいを増しながら、年相応に円熟味のあるサウンドへと向かおうとしていた。しかし2023年からリリースされている一連のシングルは、90年代の黄金期を思い出さずにはいられない完全フロア志向のアグレッシブなダンストラックばかりなのだ。もちろん、週に一曲ずつ、一年間に渡って連続リリースするという実験的プロジェクト『DRIFT』(2018~2019年)にもフロアユースのダンストラックは幾つもあった。だがそれは約50曲の中のバリエーションのひとつに過ぎない。それに対し、2023年からのシングル群は、どれも彼らが再びダンスフロアへの情熱を熱く燃やしているように感じられる。 「and the colour red」はそんな一連のシングルの中でもライブで頻繁にプレイされる曲のひとつだ。ズンッズンッと重たく響く4つ打ちに、ウネウネとのたうち回るアシッドなベースライン。この段階で、“あのアンダーワールド”が帰ってきたと胸を熱くする人も多いだろう。ヴォコーダーで加工されたカールの歌声は押し殺したような低いトーンで抑えられ、やがて単音のシンセセリフが効果的に絡み出す。深いエコーやリヴァーブ、そしてノイズのコラージュも効いている。このダブとテクノとロックの混合物のような暗く妖しいダンスチューンには、『dubnobass~』の再来という賛辞さえ送りたくなってしまう。