川和 岡野亘監督#2「高校のこの3年間がモチベーション」
横浜市都筑区にある県立川和高校は創立62年。神奈川県内屈指の進学校であり、文武両道としても知られている。マネージャー6人をあわせ、部員65人が在籍する川和高校サッカー部を率いるのが就任2年目の岡野亘監督(30歳)。その指導法とは。いまの生徒に求めているもの、そしてチームの変化の兆しとなった今年の夏に経験したこととは。 【フォトギャラリー】川和高校 ―――ピッチ内の指導ではどうでしょうか。 トップダウンでやるつもりはありません。生徒と話し合いながら進めます。試合後、主将、副主将と交えて、ゲームの反省点を踏まえ、どんなメニューをやりたいか、やればいいのかを考えて、トレーニングに取り入れます。 あとはコーチなど、いろいろな方が来てくれるので多くの意見を聞いて、自分に一番合う方法を選んでくれればいいと伝えています。監督だから言うことが絶対というわけではないのですから。たとえ言うことがバラバラでも勝つためにアドバイスしてくれるので自分で取捨選択をさせます。 今の生徒たちは、サッカーはそこそこできます。自分が根をつめて教えなくても、こちらがコンセプトを伝えれば、どんどんできます。また公立高校なので、私が会議に出席しなければならない日に「じゃ、サッカー部の指導に行ってきます」というわけにはいきません。たとえば高校選手権の2回戦・慶應義塾戦(9月14日・2○0)までの1週間。学校の文化祭を担当していたので、練習を見たのは木曜日だけでした。本人たちにコンセプトと相手の映像を見せて、練習メニューを与えました。大丈夫かなと思いましたが、結果、勝てました。常にグラウンドにいって、多く指示を出しても、主体的に選手がプレーできなくなりますから。 ―――試合前の様子を見ますと、整列する直前、1、2分、短く伝えて、選手を送り出しますよね。 選手たちは自分たちで話し合えますし、試合前に多く指示をしても選手の頭におそらく入りません。最後は気持ちですし試合は生き物ですから。その分、選手を奮い立たせる、いい意味で勘違いさせる、とにかく戦わせる。出られない選手が一番悔しいので、その選手たちの分も戦ってもらいたい。そんな思いでコーチングしています。 ―――たとえば強豪校ですと、選手たちにはJリーグや大学あるいは海外という選択肢もあります。そのなか県内有数の進学校である川和高校の生徒がサッカーをするモチベーションはどのあたりにありますか。 大学に入ってサッカーを続ける生徒はあまりいません。なので、高校のこの3年間がモチベーションです。すべてをかけて。将来を見据えてモチベーションを上げるのか、それとも僕たちには今しかないという考え方か、どちらとも正解だと思います。 ―――選手集めではどうでしょうか。聞けば、中学でオール5の生徒でもなかなか入れないそうですが、選手集めが大変ですよね。 8月に来春、入学する中学3年生にむけ部活動体験を開きました。昨年は10人ちょっとでしたが、今年は戦績が良いためか、50人近く来てくれました。ただこちらは「勉強頑張ってね」としか言えません。近隣ですと大和高校さんも進学校でサッカーが強い高校。いい指導者の方もいます。うちか、大和高校さんで迷う生徒が多いですね。 ―――なかには、川和高校に来て、サッカーを始めた生徒さんがいるのでは? 1、2年でそれぞれ1人ずついます。とても頑張っています。練習試合で出場した時、スローインがうまくできなくて悔しがっていました。もともとバスケットをやっていたのかフォームがバスケットのシュートなんですね。また選手たちの良いところですが未経験の選手がいても揶揄したり、からかったりはないですね。仲間は仲間であると。ここは良いところです。 ―――今の選手たち、生徒を見て、感じることはありますか? 自発的に意見を言うことが足りないなと感じます。たとえば「なぜ試合に出られないんだ」など、もっと監督である自分に意見を言ってもいいと思うんです。また選手同士「お前、決めろよ」とか「なに失点してるんだ」ともっと言い合って、ケンカしてもいいと思うんです。話すこと、自分の意見を伝える能力がないと、いざ社会に出た時、将来、AIにとって代わられてしまいます。そのあたりも培っていきたいです。 ―――確かに今の生徒さんたちには激しい感情はあるものの、ぶつけ合う機会そのものがないかもしれませんね。 今年の夏、母校である日本体育大学出身の監督が率いるチームが集まる、サッカーフェスティバルに参加しました。 この大会で茨城の東洋大牛久さんに大量失点して、0-5で負けるなど、結局1勝しかできませんでした。このとき、チームのなかで言いあいのケンカをしていました。大会前、県内の強いチームと試合をして、1‐0、3-2で勝って、調子が良かったです。でも私は選手権の前、天狗の鼻を折るじゃないですが「滅多打ちにされないかな」と思っていたので「ちょうどよかった」と見ていましたが、結果、高校選手権の2次予選にいい傾向で進めました。 ―――改めてですが、選手の自主性を重んじていることが伝わりますし、それがサッカーに生かされ、結果にもつながっていると感じます。 勝った喜び、負けた悔しさをかみしめながら、とにかくサッカーを楽しくやってほしいです。チームには膝の大けがで試合に出られない選手、体調を崩して、サッカーができない選手がいます。その仲間のために戦う、仲間を思う気持ちは他の学校より絶対に培われています。強い仲間意識はサッカーでも社会でも活きます。高校時代の仲間は一生の仲間ですから。 (文・写真=佐藤亮太)