AWSジャパンと浜松医科大学が連携--医療ビッグデータの活用でスマートヘルスケアの実現へ
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)と浜松医科大学は11月15日、スマートヘルスケアの実現に向けた包括連携協定を締結したと発表した。同日に行われた締結式では、連携協定に関する具体的な取り組みが紹介された。 この連携協定は、人口減少や少子高齢化における静岡県内の医療課題に対して、クラウドやAIの導入により、県民がいつでも安心して必要な保健・医療・介護サービスが受けられる医療体制の実現に向けて取り組むとしている。浜松医科大学 学長の今野弘之氏は、「AWSが持つ最先端のクラウド技術を利用してイノベーションを進めたい。例えば、県民の健康データシステムや地域医療情報システムを整理することで、医療の質や効率性が飛躍的に向上すると確信している。また、災害時の医療体制維持・運営にも資すると感じており、われわれが進めている働き方改革にも有用な協定となると思っている」と連携協定に対する期待を述べた。 AWSジャパンのヘルスケア領域においては、クラウドを活用して医療情報を蓄積する医療ITインフラやセキュリティ対策などの提供・支援を行っている。さらに蓄積したデータは生成AIを活用して分析・予測し、結果として医療従事者の負担軽減や県民の健康づくりに寄与できているという。一方、浜松医科大学では、「静岡県民の健康づくり」を中心に、「県内の医療支援および医療・介護連携の促進」や「救急・災害時などの持続可能な医療提供体制の整備」「医療従事者の働き方改革」「DXによる医療の高度化」に取り組んでいるという。 両者は、連携を通して市民や県民向けに医療ビッグデータの効率的な共有と活用で医療サービスのデジタル化を推進。クラウドの活用により災害時などには医療データへの安定したアクセス体制を確保し、平常時には健康データプラットフォームを基盤としたデジタルヘルスケアアプリやAI健康予測モデルの導入などを実施する。 AWSジャパン パブリックセクター統括本部 ヘルスケア事業本部長 大場弘之氏は、「生成AIは医療分野に適している仕組みである」とし、例えば患者と治験のマッチングなどの臨床研究や、患者全体を捉える時系列の記録、紹介状/医療請求事務書類の自動生成といった事務作業の効率化に期待できるという。 今回の連携における第1弾として、浜松医科大学では2024年4月施行の医療従事者の働き方改革に対応するため、医療現場での生成AI活用プロジェクトを実施する。このプロジェクトを通じて、各職種の専門性を生かしたタスクシフトを行い、より質の高い医療の提供を目指す。今後は、生成AIの具体的なユースケースの特定から実証検証を経て医療現場への本格実装を共同で進める。また、2029年に予定されている浜松医科大学の電子カルテシステムの更新には浜松医療センターとのクラウドサービスを活用したシステム統合を検討しているという。 静岡県は医師の数が少なく、浜松医科大学は県内で唯一の医学部を設置している。浜松医科大学 医療DX推進担当 病院長特別補佐の五島聡氏は、大規模病院における課題として患者利便性や職員への対応、高い専門性の維持などを挙げ、「特に地域との連携は今後の2次医療圏(入院に係る医療を提供する一体の区域として定められた医療圏)の減少を鑑みて非常に重要度の高い課題だと認識している」と説明した。 同大学は、2025年度に浜松医療センターと地域連携法人を設立し、電子カルテや部門システム、病床管理・病床タスクシステムの連携を図り、病院機能をより強化していくという。また、同大学は厚生労働省が提唱している「令和ビジョン2030」の「全国医療情報プラットフォームの設立」のモデル事業に参画し、2024年度において「電子カルテ情報共有サービス」の基盤が整う予定になっている。 電子カルテ情報共有サービスは、医療データの標準規格「HL7 FIRE」を用いて患者の情報を医療機関同士で電子的にやりとりできる。同事業は浜松医科大学を中心に、6病院が推し進めている。 他方、モデル事業を進めるに当たり、五島氏は「DX人材の不足が課題となっている」と訴える。経済産業省の「デジタルスキル標準」によると、DXを推進する主な人材として「ビジネスアーキテクト」「データサイエンティスト」「サイバーセキュリティ」「ソフトウェアエンジニア」「デザイナー」――の5つの人材を定義している。浜松医科大学では、ソフトウェアエンジニア、データサイエンティスト、サイバーセキュリティ人材の確保が難しいとし、AWSジャパンとの連携協定で不足している人材やスキルに対して同社からのサポートを期待しているという。 AWSジャパン 常務執行役員 パブリックセクター統括本部長 宇佐見潮氏は、「この連携を通して、静岡県民の皆さまに安心で質の高い医療を提供できるように技術面だけでなく、人材育成や地域活性化の面でも全力でサポートしていく」と意気込みを語った。