家父長制のパキスタンでも性は恥ずべきものではない「ジョイランド わたしの願い」 サーイム・サーディク監督
パキスタンの「ジョイランド わたしの願い」は、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞とクィア・パルム賞、インディペンデント・スピリット賞最優秀外国語映画賞などを受賞、パキスタン映画のクオリティーの高さを世界に示した。初の長編映画でオリジナル脚本も手がけたサーイム・サーディク監督は「家父長制の中で生きるすべての人たちへのオマージュのつもりで作った」と語った。 【写真】「ジョイランド わたしの願い」のサーイム・サーディク監督
失業中の次男が見つけたバックダンサーの仕事
パキスタンの大都市ラホール。ラナ家の次男ハイダルは失業中で、メークアップアーティストの妻ムムターズが家計を支えている。家父長制の伝統に厳格な父から、早く仕事を見つけて男児をもうけるようプレッシャーをかけられていた。友人から紹介されたバックダンサーの仕事に就くが、ダンサーでトランスジェンダーのビバと出会い、そのパワフルな生き方にひかれていく。 伝統的な価値観の中で暮らす夫婦や家族、性差別を受けるトランスジェンダーが自分らしく自由に生きたいと葛藤する物語。サーディク監督自身や周囲の状況が、映画化のきっかけとなった。「この映画は本能的に出来上がったといえる。10代から青年時代を通じて嫌だと思っていたのは、世の中に性に対するたくさんの厳しい規範があったことだ。それに従わなければいけないとされていたし、セクシュアリティーや欲望へのタブーがあることも受け入れがたかった」
セクシュアリティーを隠そうとした両親
サーディク監督の話は具体的だ。「両親はセクシュアリティーについて絶対に話さない。むしろ隠そうとする。そうしたことは恥ずべきものだという考えがあった。しかしそれは家父長制から来ていて、批判すべきだと思っていた。人が本来持っている欲望や体をコントロールしてしまうからだ」 筋立てはフィクションだが自伝的な要素もあり、長年にわたって自身の内にあった思い、葛藤があふれ出ている作品といえる。「(映画製作自体が)個人的なカタルシスでもあったと思う。作ってみたら、これまで嫌だと考えてきたことについて語っていた」と話した。