もう働きたくない…日本で「おひとりさまFIRE」が止まらないシンプルな理由
「伸びる業界」と「落ちる業界」
二人以上の世帯においては、収入の少ない世帯人員(典型的には子)を養うために世帯主が消費を抑制している面があるとみられるが、単身世帯においては「自分の収入を100%自分のために使える」ため、相対的に財布の紐が緩い面があるのだろう。 次に、単身世帯の消費内容を確認してみよう。 年齢や所得の差を無視して、大まかに「平均的な単身世帯」と「平均的な二人以上の世帯」の消費内容を比較すると、「教育」や「外食」で差が大きい。 最も差が大きいのは「教育」(学校授業料、学習塾代など)である。二人以上の世帯は消費全体の数%を教育に費やしているのに対し、単身世帯の教育支出は消費全体の0.1%未満とほぼ皆無である。もともと少子化で教育産業は伸びづらい状況が続いてきたが、単身世帯化(による少子化の加速)が進むにつれてそうした傾向に拍車がかかるだろう。 逆に「外食」は単身世帯で支出割合が高い。料理を一人分作るのも三人分作るのも手間はそれほど変わらないことから、単身世帯にとって自炊の「タイパ」(タイムパフォーマンス)は通常あまり高くない。また、スーパーで売っている食材の大部分がファミリー向けの分量であることも、単身世帯を自炊から遠ざける要因になっているとみられる。 結果として、手間のかからない外食が選好されやすくなるのだろう。したがって、単身世帯が増えていくにつれて、外食(特に、「おひとりさま」フレンドリーな外食)の需要は大きく高まることが想定される。逆に、スーパーなどでのファミリー向け食材の需要は伸びにくくなるだろう。 以上のように、単身世帯は様々な点で二人以上の世帯と異なる消費行動をとるため、単身世帯の増加に伴って個人消費関連市場にも様々な変化が出てくることが予想される。
日本企業はFIREを抑制できる?
そうした中で、現在はニッチ市場と捉えられている「おひとりさま市場」を取り込めるかどうかが、消費関連企業の浮沈を分ける時代になっていくだろう。10年前と比べれば「おひとりさま」向けの商品・サービスは増えた印象で、「ひとり焼肉」の専門店が登場したことなどはその象徴的な動きかもしれないが、まだまだ潜在的なニーズを掘り起こし切れていないのではないか。 筆者も「おひとりさま」の一人として、日常生活において「こういう商品・サービスがあればいいんだけどな」と思うことが多々ある。こうした潜在的なニーズを誰よりも早く掘り起こすことができれば、消費市場に風穴を開けることができるかもしれない。この点、「おひとりさま市場」の拡大という構造変化は、消費関連企業にとってビジネスチャンスとなる可能性がある。 本稿では単身世帯が増えている理由(非婚化が進んでいる理由)については考察しなかったが、単身世帯化が経済に与える影響が大きいとすれば、当然こちらも重要な論点である。非婚化についてはこれまで一定の議論が積み重ねられてきたし、それに基づき政府が様々な対策を講じてきた。 その点で政府が必ずしも無為無策であったわけではないが、残念ながら婚姻数の減少は止まっておらず、目に見える結果が出ていないのも事実である。結果が出ていない以上は、次なる対策を考え、実行することが政府には求められる。原因の特定という側面でも、特定された原因に対する対策立案という側面でも、より踏み込んだ議論・分析が必要となるだろう。 また、人手不足の深刻化を防ぐという観点では、政府や企業にはFIREを抑制するための取り組みが今後求められるかもしれない。単身世帯化(非婚化)への対策とは異なり、この点に関する処方箋は非常に単純である。