いきなりステーキ、なぜ高級路線へ?「肉一枚1980円」すき焼き専門店の開業に踏み切った「明快な理由」
急成長と経営危機を繰り返して
「すきはな」を経営するのは株式会社ペッパーフードサービス。筆者は、同社がこうした業態を手掛けたということに大いに注目している一人だ。 同社の創業者は、東京都墨田区でステーキ店などを展開していた一瀬邦夫氏。1994年、ステーキのファストフードと言える「ペッパーランチ」を開発し、最盛期には500店舗以上を展開した。だが、その最中、O157の食中毒を起こして経営危機を経験することになる。 その窮地を救ったのが、ステーキを自分好みのボリュームでお値打ち価格で食べることができる「いきなり!ステーキ」だった。2013年12月に銀座四丁目にオープンした1号店は20坪ながら月商3000万円を売り上げたのである。 同店の家賃は150万円だったので、売り上げに対する家賃比率は5%。一般的には10%と言われるように、この数字はきわめて優勝なものだった。こうして、「いきなり!ステーキ」は、都心部にある高い家賃の狭小物件でも営業できるとして、出店ペースを上げていく。 2014年には30店舗、そこから15年77店舗、16年115店舗、17年188店舗、18年397店舗、2019年493店舗と拡大していった「いきなり!ステーキ」。だがその後、急速に店舗を減らすこととなる。
黒字転換のタイミングで開発
この度、筆者は同社代表取締役社長の一瀬健作氏にインタビューをする機会があった。一瀬健作氏は邦夫氏の子息で、外部の飲食業で修業を積み、1999年同社に入社。「ペッパーランチ」の店長を担当した後に、営業部門や開発部門の部長を歴任、2011年に管理本部長となり、父邦夫氏が率いる「攻める」姿勢を支えていた。 当時の状況について、一瀬健作社長が説明する。 「『いきなり!ステーキ』が500店舗体制になったタイミングで、新規出店する場所がなくなっていました。そのため、1つのエリアで繁盛していたところに、2店目、3店目と出店するようになり、自社競合を招いていました。それを避けるべく、積極的に店舗削減を行っていったのです」 「いきなり!ステーキ」の店舗数は、2019年12月期が約500店舗だったのに対し、20年12月期には約300店舗まで縮小、売上も675億円に対して310億円となった。また、20年12月期には、同社の成長をけん引してきた「ペッパーランチ」を85億円で譲渡。この資本をもって経営の立て直しを図っていくこととなる。 その後も「いきなり!ステーキ」の赤字店舗の閉鎖は継続的に行われ、2023年12月期には186店舗となった。すると営業店舗の売上高は、コロナ禍の収束と相まって、安定するようになったという。 結果、2024年の中間期では営業利益は黒字に転換。この12月期では当期利益も黒字に転換することが予想されている。つまり「すきはな」は、まさに同社が大復活を遂げたタイミングで開発された新業態なのである。