「AQUOS sense9」開発者インタビュー ワクワク感目指した2024年冬の“必要十分スマホ”とは
シャープから秋モデルとして「AQUOS sense9」が発売された。6万円前後のミドルクラスで、必要な機能・性能をしっかり網羅しつつ、グローバル市場も意識し、細部まで作り込まれた、幅広い層にオススメしやすい堅実なモデルだ。 【画像】シャープの中川氏 6色の本体カラバリと純正カバーケース(別売り)があり、色のコーディネートが楽しめることも特徴となっている。 その「AQUOS sense9」について、企画開発を担当したシャープ通信事業本部 営業統括部 マーケティング部 係長の中川伸久氏とパーソナル通信事業部 商品企画部課長の清水寛幸氏、同事業部 第一ソフト開発部 技師の堀善彦氏、デザインスタジオ デザイナーの龍華紫穂氏に話を聞いた。 ■ 「どんなスマホ?」 AQUOS sense9のコンセプト ――まずは「AQUOS sense9」の商品コンセプトと過去モデルからどう進化しているかをお聞かせください。 中川氏 AQUOS senseシリーズでは「ど真ん中」をコンセプトにしています。その時々に合わせた「必要十分」を見極めつつ、今回は“気持ちが上がる”ところを取り入れました。 進化ポイントとしては、AQUOS senseシリーズも時代ごとに「必要十分」が変わり続けています。最初はバッテリが持たないよね、というニーズがあり、大型ディスプレイとIGZOで解決しました。2年くらい前になると、ミドルゾーンの製品でもカメラ画質が求められるようになりました。 そうした中で今回はどこを強化するか悩みどころでした。「AQUOS sense8」は5000mAhバッテリを搭載し、OISカメラや90Hz駆動のIGZO OLEDと評判が良く、やりきった感もありました。今回、さらに進化させるというところで、悩みに悩みました。 グローバルで戦えることをひとつの軸にしています。海外ではOPPOやVivoなど、そういったところとも戦えるよう、スペックやニーズを把握してやってきました。もちろん価格帯は非常に重要なので、手に届く価格とし、他社に勝てる、グローバルで戦えるところを目指しています。 「AQUOS sense9」ではPro IGZO OLEDを採用し、ライカではありませんがRシリーズで培ったカメラ技術も投入しました。さらにミヤケデザインを採用しています。こういったところに力を入れて商品化しました。やはりワクワク感を提供したいというところで社内でも審議し、いろいろ考えました。 ――意地悪な言い方をすると、ワクワク感はフラッグシップモデルに任せれば、とも思ってしまいますが。 清水氏 同じ「ワクワク感」でも、「新しいコレができる」「先進性」などのワクワク感はハイエンドモデルが担っています。AQUOS senseシリーズはスマホに詳しくない人にも刺さるようなワクワク感です。そこで何ができるか、ということを考えました。 ■ AQUOS sense9、注目してほしい点は? ――それって難しいところですよね。9世代目で製品としては完成されていますし。 中川氏 たとえば、外観は買っていただくときのワクワク感につながります。あとはPro IGZO OLEDディスプレイ。手頃な価格帯の製品でありながら、ハイエンド機種にも採用したディスプレイです。美しい表示に加えて、120fpsというフレームレートもサポートしています。フレームレートと言っても実感いただきにくいかもしれませんが、スクロールする際や、動きのある動画を観ているときにも、より滑らかに表示されるわけです。 こうしたハードウェア、それを活かすソフトウェアを組み合わせて、買うときにもワクワク、使うともワクワク、カメラを撮ってもワクワクしてただける。使い方を含めてのワクワク感を、と考えました。 ――では、具体的なお話として、「AQUOS sense9」の開発にあたり、必要な要素をどう盛り込んでいったのでしょうか。 中川氏 前の機種である「AQUOS sense8」でカメラや電池をしっかり進化させていました。その上で、グローバル勢との競争も意識して検討を重ねました。 たとえば、ディスプレイ駆動や電池の持ち、サイズなどの要素を一度、数値化し、どれかが飛び抜けて優れるのではなく、レーダーチャートにしたときにキレイな五角形になるように、と。そうした部分をクリアすることで、共通意識を創り上げていきましたね。 清水氏 ワクワク感につながるところとしてはスピーカーもあります。今回はステレオとしました。ここも海外のニーズも取り入れているところです。大きな部材ですが、その上で本体サイズにこだわるというのは苦労したポイントです。 中川氏 スピーカーはステレオに加えて、さらに音質の向上も図っています。 清水氏 ディスプレイの上下左右にあるベゼル幅(額縁)も均等にしてバランスを整えています。 ――かつては、ディスプレイ下部のベゼルが分厚くなりがちでした。 清水氏 下部にはディスプレイのフレキシブルケーブルなどを配置することがあるのですが、そこを工夫しました。 中川氏 ディスプレイ上部のインカメラも、「AQUOS sense8」では半円のノッチ形状でしたが、これはグローバルでは少なくなっているデザインです。ここは「AQUOS sense9」では変更しました。 清水氏 半円ノッチだとエントリーゾーンの端末と受け止められる可能性があるんです。 ――価格を考えると、カラーバリエーションを増やさない方が良いのでは? と思ってしまうのですが……。 清水氏 実は、あまり変わらないんです。senseシリーズはある程度の台数の販売が見込めます。一定数を超えるとコストに影響はありません。 中川氏 フラッグシップはどうしても、ミドルレンジ、エントリーと比べ、出荷台数が限られますので、カラーバリエーションを広げることも難しい点があります。とはいえ、10色など、多くしすぎると生産などの管理も大変なので、今回は6色としています。 ――カラーバリエーションだけでなく、メモリとストレージにも6GB/128GBと8GB/256GBとバリエーションがあります。個人的に驚きました。 中川氏 メモリを増やすと、その分、価格にも影響します。とはいえ、AQUOS senseシリーズはMVNOでのお取り扱いも多く、メモリがより大容量となるモデルも求められています。そこで生産的には難しいのですが、あえて2種類、ラインアップしました。 ――より割安なモデルであるAQUOS wishシリーズとの違いをどう考えているのでしょうか。 清水氏 全く違うクラスです。AQUOS wishシリーズは、「どうしても現状の販売方式にアジャストする必要があり、価格は絶対に上げられない、その中でどこまでできるか」という勝負のモデルです。 とにかく効率を良くしています。ディスプレイも調達しやすいものを採用しています。一方、AQUOS senseシリーズは、“世の中の真ん中”を僕 らが考えるんだ、と。そこに投げ込める端末を考えています。 ■ AQUOS sense9の“色”はどうやって決まったのか ――カラーバリエーションを豊富に用意したことは、どういった発想で進めていったのでしょうか。 龍華氏 まずは「ワクワクを提案できないか?」というテーマのもと、スマホのデザインのマインドとしても新しいことができないか、と考えました。 そこで、「スマホのデザイン」ではなく、「ファッションアイテムのデザイン」というアイディア出しをすることで、吹っ切れることができたんです。 そうした使われ方では、ショルダーストラップで身につけたり、鏡を使った自撮りをしたりするなど、「その人の個性を表わす」アイテムになっている面があります。帽子やバッグに近いものではないかと。 となると、ファッションアイテムとしてのデザイン要素として、本体とケースで色を組み合わせられる“バイカラー”があります。 通常、スマホのカラーを決めるには、カラーチップ(色の見本)で検討しますが、今回はファッションコーディネートを調べました。「こうした配色ならスマホに落とし込んでも面白いのでは?」と考えています。なので、「AQUOS sense9」を最初目にしたとき、カラーによっては、変わっていると感じられることがあるかもしれませんが、実は街中で目にしている色の組み合わせになっています。 ファッションアイテムから色を考えたので、革素材などからも色のアイデアを取り込みました。こうしたカラーをアルマイトのパーツに落とし込むのは苦労したところです。本体とケースのバイカラー以外にも、一部のカラーでは背面パネルのカラーとカメラ部のカラーもコントラストを付けています。 本体と純正ケースのカラバリは6色あります。ファッションの視点だと、洋服を選ぶときは色の組み合わせを考えます。同じようにスマホケースもシーンによって付け替えるのが面白いのではないかと。本体と違う色のケースを選んでも映えるよ、というのがいつもと違うところです。 どういった色を選ぶかは、特設Webサイトで提案していますので、ぜひ見ていただきたいです。 ――クルマや家電ではなく、ファッションアイテムに行き着いたのはなぜでしょう? 龍華氏 Instagramで芸能人などの投稿を見ると、このスマホにこのケースをつけてるんだな、真似したいな、と思うことがあります。自分の個性を表わすセットとして見ることのできるアイテムがイイかな、と。 もともとミヤケデザインに監修していただくところで、近い考えがありました。環境から逆算してカラーを決めよう、と。スマホにとって環境は何かと考えると、人であり、人の着ている服です。 ――そこはAQUOS senseシリーズらしい発想と思えます。そこでバイカラーというアイデアが実現できたのは面白いですね。 龍華氏 ワクワクを提案できないか、と投げかけられなければバイカラーは実現できなかったかもしれません。ワクワクする提案として、本体から楽しそうな雰囲気を出していかないと伝わらないと考えました。 ――こうした提案は龍華さんの所属部署のデザインスタジオではいつもやっているのでしょうか。 龍華氏 初めて提案しましたね。 中川氏 今回はデザインスタジオ側から、「こうするよ」と提案いただきました。ワクワクのためにデザインを先頭に、前面に押し出したいので、(優先度として)一番上に持ってきています。 清水氏 ここのところ、ライフスタイルを提案したい、という考え方に変えています。アクセサリーを含めてユーザーに提案したい、という中で良い提案をデザインスタジオからもらったので、やろう、と踏み込みました。 ――こうした取り組みでは、タレントの起用がわかりやすい施策かもしれませんが……。 中川氏 マーケティングの話になってしまいますが、AQUOSのブランドアンバサダーは松田優作さんです。その中でも、「AQUOS sense9」は顔を隠して端末を前面に押し出す形でやっています。 ■ AQUOS sense9のカメラ ――話は変わって、AQUOS senseシリーズに搭載するカメラは、どういった考え方で開発されているのでしょうか。 中川氏 Rシリーズの1インチセンサーといった尖ったスペックではなく、それでいてグローバルで戦えるようことを目指すためにはどういったものが必要か考えていきましたね。 「AQUOS sense7」「AQUOS sense8」とやってきて、標準カメラは良いものに仕上がってきました。一方で、広角カメラのセンサーは8メガピクセル。ここはまだ弱点と言える状況だった。 一方、「AQUOS R9」では50メガピクセルカメラを採用していました。今回の「AQUOS sense9」でも同じカメラを採用することでコストを下げて効率化とスペックアップを両立させています。 堀氏 センサーが強化されると画像処理も強化する必要があります。広角カメラでも暗所でよりキレイに撮れるですとか、オートフォーカスもPD(位相差検出)など、そういったセンサーの良いところを引き出すのが僕の担当です。 ――過去のAQUOS senseシリーズに比べると、どういったシーンでの撮影に強くなったのでしょうか。 堀氏 広角カメラの夜景は、「AQUOS sense8」に比べると格段に良くなっています。夜空のノイズ、建物の光といったところで改善しています。 ――ハイエンドモデルの画像処理エンジンを使っているとのことですが、単純に考えると、高い機種のものをそのままだとコストアップにつながるのでは、と思ってしまいます。 清水氏 搭載するSoCによってできるものとできないものが決まってくるところがあります。その中で、「AQUOS sense9」でもできるところを搭載していますが、コストがかかる機能もあり、そのあたりを取捨選択するのも難しいところです。 堀氏 「AQUOS sense8」からの進化としては、画質エンジンによりナイト撮影が強化され、より解像感が出ています。同じセンサーを採用するメインカメラでも、ナイト撮影の解像感が上がっています。お客さまからの反響などを見ても、気がついている方もいらっしゃるようです。 ――センサーの良いところを引き出す、という点をもう少し詳しく教えてください。 堀氏 センサーごとに、どうしても得意な分野と苦手なことがあります。まずは、そうした特性を見極めるところから始まります。センサーを変えると、ハードウェア上のスペックは向上しますが、ノウハウはまた新たに得ていくことになります。同じセンサーでも、何機種にも採用して使いこなしていくうちに、良いところを引き出していくことで熟成されていきます。 ――今回の「AQUOS sense9」の場合、メインカメラのセンサーが前モデルと同じなので、より良いところが引き出されている。 堀氏 はい。そして、ウルトラワイド(超広角)カメラとインカメラはセンサー自体が変わっています。 ――インカメラはメーカーによって力の入れ方に差がありますね。 堀氏 今回のインカメラ強化は海外展開を見据えています。 清水氏 インカメラが8メガピクセルだと低く見られてしまうところもあるので、そこを意識しています。ウルトラワイドも合わせ、どのカメラでもキレイに撮ってもらえるようにしました。 ――AQUOS R9はインカメラも50メガピクセルにしてオートフォーカスにも対応されましたが、ここは「AQUOS sense9」と違うところですね。 中川氏 悩みましたねぇ……将来的にはやりたいと思いつつ、コストのところがあるので、今回は32メガピクセルとしています。 堀氏 インカメラはセンサーが変わったので、今回はセンサーを使いこなすことに注力しました。画質エンジン自体はそこまで変わっていませんが、ナイト撮影は強化されています。 中川氏 あとは動画撮影もAIを活用して変えています。ブレの強弱に合わせ、補正角を調整しています。たとえば止まっている状態であれば、ブレが少ないので、補正角が小さく済み、画角が広がります。逆に歩きながらなど、ブレるときは画角を縮め、補正角を広げています。 これは動画撮影中にじわーっと変わるので、普通に使っている分にはほぼわからないかもしれません。 このほか、ウォーターマークも今回から対応しました。以前はライカモデルだけでしたが、ほかのモデルでも入れたいという意見をくみ取りました。 画質調整もナチュラルとダイナミックが選べます。ダイナミックは映える色調で海外で人気がありますね。 堀氏 Proシリーズで手掛けていたノウハウを受け継ぐことで、高機能化しつつも、コストを削減できています。 ■ 開発陣の手応えは ――SIMフリー版も発売されましたが、手応えは? 清水氏 すごく良いです。一方でソフトバンクさんは「AQUOS sense8」の取り扱いがなく、通常のAQUOS senseシリーズは5Gまで遡るのですが、待ってましたと言ってくださる方も。KDDIさんはオンライン限定だったのが店頭でも取り扱いになったり、今回は待っていただいているお客さまがいる感触があります。 ――カラバリの人気は? 中川氏 やはり黒と白が強いですが、それ以外で多いのはブルーです。メインカラーというのもありますが、受け入れていただいている。コーラルとグリーンもけっこう好きな人がいるので。どれが売れていない、というのはありませんね。MVNO向けにはグレージュも出るので、それも要チェックだな、と。 ――ケースは全部カラーがありますが、逆にクリアケースはないのでしょうか。 中川氏 デザインからも言われていたところです。サードパーティではクリアデザインが用意されています。 ――純正ケースはストラップホールがありませんよね。 清水氏 そこはちょっと考えているポイントです。薄いストラップタブでも使えると思いますが、そこはメーカーがどうにかすることで安心が提供できるポイントです。 ――本日はありがとうございました。
ケータイ Watch,白根 雅彦