「クマから市民を守りたい」若いハンターが増加 命をかけたミッションに出動費「格差」の課題
北海道でヒグマ駆除を担ってきた猟友会が揺れている。11月、北海道猟友会は、自治体などと連携が不十分な場合、出動を拒否するよう全支部に通知する方針を決めた。ヒグマ駆除は、クマの出没が相次ぐ北海道で道民の命に直結する。何が課題なのか。現役のヒグマ防除隊の隊長に話を聞いた。前編から続く。 【写真】ヒグマ防除隊の現役隊長が明かすハンター試験の実態 * * * ■「市民を守りたい」若い世代 北海道猟友会・札幌支部の「ヒグマ防除隊」の隊長、玉木康雄さん(62)は、クマ駆除におけるハンターの重要性と、求められる確かな腕について取材に応じてくれた。 クマ駆除の必要性は、クマが出没する地域に暮らす人こそが実感しているようだ。 本来猟友会は狩猟を趣味とする人たちの集まりだが、最近は「ヒグマから市民を守りたい」という20~40代の若い世代が増えた。現在、札幌支部に所属するハンターは667人。3年前と比べて100人ほど増加した。 ヒグマ防除隊に所属するメンバーは35人。100%志願制で、毎年、札幌支部の会員全員にエントリーシートが配布される。申し込みには家族の同意が必要で、書類選考、面接と射撃試験を経て、十分なクマ猟の経験と、極めて高い射撃技術を持つ者だけが入隊を許される。玉木さんの射撃の腕前はここ数年トップだという。 「ミッションには、何度も死線をくぐらないと見えてこない大きなリスクがある。そのため、選考は慎重に行っています」 ■出動費の自治体格差 ハンターたちの命をかけたミッションに対して、対価は十分なのだろうか。取材を進めると、自治体間に格差があることも見えてきた。 札幌市は北海道猟友会・札幌支部と業務委託契約を結び、それに基づいて防除隊が出動する。昨年度の委託料は銃弾代や保険料などで193万7100円。出動したハンターには出動費が支払われる。 「出動費の額面は明かせませんが、他の地域と比べて多い金額をいただいていると思います」(玉木さん) 人口約200万人の札幌市は他の道内の自治体に比べて財力がある。さらにクマの駆除に対するリスク評価を行ったうえで出動費の金額を決めている。しかし、そのような自治体は少ないのが現状だ。北海道空知地方の奈井江町が猟友会(砂川支部奈井江部会)に提示したクマ駆除の出動の日当は1万円に満たない(発砲の場合は約1万円)。 札幌支部では、出動費の約半分は同支部の会計に入り、後進の育成に使われる。ヒグマを駆除できるハンターは一朝一夕には育たない。実践での射撃能力だけでなく、さまざまな条件下での作戦立案能力や関係者との調整能力が求められる。 全国的にクマの駆除は猟友会に依存してきたが、それを見直すべきだという声も上がっている。 「自治体による『職員ハンター』構想も聞いています。そうした組織がきちんとできれば、役割を引き継いでもらえばいい。けれどもいま、ヒグマの防除に穴を開けるわけにはいきません。コアとなる人材育成が切実な課題です」 (AERA dot.編集部・米倉昭仁)
米倉昭仁