これぞNEW!脱丸刈り、監督自撮り動画…センバツ「丹生スタイル」
2~3時間の練習のうち30分は自主練習。第94回選抜高校野球大会に21世紀枠で出場する丹生(福井)の練習は高い自主性が特徴だ。しかし、その自由さゆえに、何をしていいのか悩む選手も少なくない。そんな選手を救っているのが、監督が作った動画だという。 【センバツ全試合の号外を発行】 ◇「ユーチューバーになれますよ」 きっかけは2020年4月。新型コロナウイルスの感染拡大で全体練習が制限されたことを受け、自宅などでの個別練習が大幅に増えた。各自でメニューを考える時間が増え、主将の来田竹竜(3年)は「どんな練習をしたらいいのか分からなくて悩みました」と明かす。 そこで練習のヒントにしてもらおうと春木竜一監督(49)が取り組んだのが、自身がモデルとなってスクワットやスイング、投球フォームのコツなどを紹介した動画の配信。スマートフォンで撮影した動画を無料通信アプリのLINE(ライン)やツイッターを使って部員たちに見せた。 「スクワット一つとっても、正しい姿勢やどの筋肉を意識して鍛えるかなど、お手本が必要だと思ったのがきっかけです」と春木監督。それぞれのトレーニングで重要なポイントをスローモーションにしたり、矢印で強調したりと工夫を凝らした。選手に送ってもらった自主練習の様子をSNSで共有し、「会えないけどみんな頑張っていることを意識してもらった」。 選手たちから好評を集め、全体練習が再開してからも動画を使った指導は続く。来田は「口で言われただけでは分かりづらいことも動画だとすんなり分かる」とうなずく。試合や練習で気になったプレーも撮影し、部内で共有する。春木監督は「自分の頭の中で思っているスイングやプレーが実際とずれているケースも多い。動画で自分のプレーを見ることでそのずれを少なくして、理想のプレーに近づけられます」と語る。 選手から「あまり長いと最後まで見ない」との声もあり、3分以内を目安に編集。試合前には、日ごろの練習の様子をBGM付きで編集した動画を配信し、トレーニングの振り返りを促しつつモチベーションを高める。春木監督は「動画を見た学校の先生から『ユーチューバーになれますよ』と言われたこともあります」と笑う。 ◇「洗髪しやすい」丸刈り継続組も 動画は雪深い同校の練習スタイルの助けにもなっている。冬の間は積雪で屋外練習ができないため、室内で守備位置ごとに分かれ、春木監督から与えられた多彩な練習メニューをこなす。 例えば、肩肘に負担が少ないフライングディスクを投げてのフォーム確認やキックボクシングのミット打ちでの体幹強化、バドミントンのスマッシュ練習でボールをリリースする際の瞬発力強化などに取り組む。 3月からは、冬に蓄積したノウハウを生かし1日2~3時間の練習のうち、約30分間が自主練習。冬にこなした多彩なメニューから自身で取捨選択し、課題の修正などに取り組む。春木監督は「自主的に取り組む練習の効果は高い。理想は1週間のうち全体練習が2日、試合が2日。あとは選手の自主練習にしたいぐらい」と話す。 自分で考える癖をつけてもらおうと、19年夏からは髪形も自由にした。 きっかけは、プロ入りしたOBの玉村昇悟(広島)の存在だ。玉村は高校時代から自主的に考えたメニューをこなし、19年夏にエースとして福井大会で準優勝した。春木監督は「(玉村のように)考えながら練習する癖をつけてほしかったんです。髪形自由化は自分たちで考える習慣のきっかけづくり」と話す。 当初は部員から「野球部なのに丸刈りじゃないのは変」と反対の声が上がった。春木監督は「野球部は丸刈りという刷り込みで思考停止している。練習もそうですが『やらされている』のではなく、選手たちの『こうしたい』という主体的な声を引き出したかった」。現在も2~3割は丸刈りだが、それは「洗髪しやすい」などの理由で自身で選んだ結果だ。 自分で考え、成長を続ける選手たち。夢舞台での挑戦はその大きな財産となりそうだ。【木村敦彦】 ◇全31試合をライブ中継 公式サイト「センバツLIVE!」(https://mainichi.jp/koshien/senbatsu/2022)では大会期間中、全31試合を動画中継します。また、「スポーツナビ」(https://baseball.yahoo.co.jp/hsb_spring/)でも展開します。