2015年の新語・流行語大賞にノミネート「ミニマリスト」…そのブームから10年で変わった"日本人の価値観"
■家族が同居していても「モノを持たない暮らし」はできる 辰巳がインタビューした例はどうか。ミニマリストを最初に提唱した1人は、肘という1人暮らしの男性証券ディーラー。消費社会への批判精神がベースにある。もともとモノに対する執着が少なく、お互いのペースを守るために別居していた両親もモノをあまり持たない人たちだった。 震災をきっかけに、「旅するように暮らしたい」、とミニマリストになったのは、恋人と同棲するみどり。芸人の小島よしおは、友人とシェア生活をするに当たり掃除をしようと読んだ、こんまりの本に影響を受けた。しかしミニマリストという言葉は、辰巳に取材されるまで知らなかった。 夫婦2人暮らしのおふみは、仕事がうまくいかず、運をよくしようとインターネットで検索して断捨離の概念を知り、掃除に力を入れ始めた。やがて、「いつでもどこでも行けるくらい身軽になりたい」と移住し仕事も変えている。モノを持たない暮らしは、家族が同居していてもできるようだ。最後に登場する会社員の共働き夫婦は、家事が得意な夫がリードしてモノをあまり持たずに暮らすが、6歳と4歳の子どもがいる。 ■片付けは生き方を変えることが多い 辰巳が定義したミニマリストは、「モノを減らすことを通して、人生に漕ぎ出す準備をしている人」で「人生に向き合う」ことがその目的だ。 こんまりや、断捨離を提唱するやましたひでこの実践や書籍によれば、モノを手放すことを含めた片づけは生き方を変えることが多い。徹底した片づけは、自分の価値観を見定めていく過程でもある。ミニマリストの一部が、自分の生き方を見つけようとモノを捨て始めたのは、いわば必然だ。ミニマリストの佐々木はフリーランスになったし、辰巳の本に出てくる人たちにも転職経験者はいる。 私たちは、「これを買えば幸せになれる」と宣伝する広告に囲まれて暮らしている。消費社会はそもそも、無駄を含めた大量消費が行われる前提で回っているからだ。しかし捨てるトレンドが始まって四半世紀経った今、日本人の価値観はすでに変わり始めてもいる。