エズラ・コレクティヴが「ダンスは人生」と語る理由「自由に生きろ、周りの目を気にするな」
君はダンスフロアで自由に表現できる
―「No One’s Watching Me」の歌詞はアルバムのコンセプトと繋がっていますよね。その繋がりについて聞かせてください。 フェミ:それは「今を生きろ」というメッセージ。周りの目を気にせず、自分の今を生きていくということ。それはダンスフロアに限らない、人生においてもそう。周囲の目を気にすることっていろんな機会を奪うんだ。幼い頃、僕はほんとうはナイジェリアの言語のヨルバ語を学びたかった。だけど、周りにどう思われるか怖くて言えずじまいになってしまった。結局、僕はヨルバ語を話せないんだ。一時の不安が、一生を共にすることさえできた言語との機会を奪ってしまった。だから、もしそういう気持ちを抱いたなら、周囲の目なんか気にせずにやればいい。間違える自由は存分にある。間違えてやり直すことだって楽しい。それが「No One’s Watching Me」のすべて。もし君が何かを始めようとしていて、うまくいかなかったらどうしよう、やっぱりやめようかなって思っているとしたら、僕はこう言うよ。「誰も見てやしないんだ。少なくともトライしてみなよ」ってね。 ―2曲目の「The Herald」はハイライフのようなサウンドです。この曲名を付けた理由は? フェミ:「ヘラルド(Herald)」には「喜びをもたらす者」っていう意味がある。僕らはその意味をもってこのアルバムをスタートしたかった。ダンスフロアは喜びをもたらしてくれる場所だから。この曲はアグレッシブで騒がしくて、まさにぴったりのタイトルだと思う。 ―では「God Gave Me Feet For Dancing」はどうですか? フェミ:それはアニー・マックのポッドキャスト「Changes」で彼女と話した時のこと。僕はこんなことを言ったんだ。「僕は神さまが食べるためだけに指を与えたとは思えない。きっとピアノを弾くためでもあるんだ。食べ物を味わうためだけに唇をこんな形にしたとは思えない。きっとトランペットを吹くためでもある。狩りでかけ回るために足を与えたとは思えない。きっとダンスをするためでもある」ってね。つまり、僕らはみんなダンサーなんだよ。どこで生まれて、何者で、どんな過去を背負ってきたとしても、僕らはみんな踊ることができる。それがこの曲に込められているメッセージ。歌詞にある”Give me bassline…God gave me feet for dancing” がすべてを語ってるよ。 ―その「God Gave Me Feet For Dancing」のビデオでは男女が様々な場所で踊っています。前作収録の「Victory Dance」「Life Goes On」のビデオもダンスでしたが、ダンスが表現しているものは異なるんじゃないかなと。 フェミ:自然にああなっていったんだ。表現したかったのは、喜びに満ち溢れたダンス。ダンスで怒りを表現することもできるけど、僕はただ楽しんでほしかった。難しすぎるテクニックもいらない。体が弾むような軽やかな楽しみ、それがうまく伝わるビデオになったと思う。 ―たしかにダンスの在り方が自由ですね。僕はダンスがコミュニケーションの手段になっているところに意味があると感じたんですが、そこはどうですか? フェミ:さっき話したことと同じで、それは連帯感を表現している。(MVに出てくる)あの二人はあの夜ケンカしたりしないだろう。二人の人生、旅の始まり、ダンスフロア……そういったことが詰まってる。それから、いろんな場所で踊っているのは、どんな場所でもダンスフロアになりうるってことを示したかったから。人生そのものがダンスフロアなんだ。 ―次は「Ajala」です。ライブ録音された音源から始まって、観客の手拍子も曲に一部になっています。このような作りにした理由は? フェミ:友人や家族、数百人が部屋に集まって僕らの演奏を観ている状況で録音したんだ。ダンスについての曲を作ってるんだし、僕らの演奏に合わせてみんなが踊ってくれることでリアルを感じられるから。あの曲の冒頭で「手拍子してくれると思ったのに。ほら! もう一回!」って僕が言ってるだろ? あれは録音した時のそのままの音源なんだ。それを入れたほうがリアルだと思ったから敢えて消さなかった。完璧なダンスなんてものは存在しなくて、不完全さがダンスフロアを輝かせる。あの曲もそう。目を閉じて聴いてみたら、僕らと同じダンスフロアにいるかのような、そんな気持ちになれるはずだから。 ―「Hear My Cry」は日本でのライブでもやっていた曲で、めちゃくちゃ盛り上がっていたのを覚えています。この曲名の理由は? フェミ:聖書に「困難で心が打ちのめされそうな時、私より大きくて高くて偉大なものに導いてもらえる」という一節がある。つまり、心配はいらないということ。それがこの曲で伝えたいことなんだ。 ―「Expensive」はフェラ・クティのカバーですが、原曲の名前は「Expensive Shit」です。この曲を選んだ理由と、曲名から”Shit”を省いた理由を聞かせてください。 フェミ:フェラ・クティの音楽は僕らが表現したいこととシンクロしていると思った。その中でも、僕は音楽と歌詞のカバーと、音楽だけをカバーすることに違いをつけたかった。「Expensive」にしたのは、自分自身を価値のある存在だと感じられた時の、その感情を込めたかったから。誰も君を見ていなくたって、君は存在するに値する。それを感じられてやっと、君はダンスフロアで自由に表現できる。 ―そして、終盤の「Have Patience」は美しいピアノソロです。この曲名に”Patience(忍耐)”が必要だった理由は? フェミ:人生は忍耐の連続で、たとえ踊りたいと思う瞬間が訪れても、どうにも自信が湧いてこない時がある。耐えることって、明日はきっといい日だって信じることだと思うんだ。それに、これはダンスにまつわるアルバムだけど、みんなを圧倒してかき乱したいわけじゃない。深呼吸ができるような、そんな要素を含んだレコードにしたかったんだ。