日本三大奇祭「御柱祭」は本当に“奇妙”な祭りなのか?
上社にしかない「川越し」
筆者が住む茅野市の住民は上社の氏子だ。氏子は東京などの町内会に当たる「区」ごとにグループ分けされ、どの区がどの御柱を担当するかを抽選で決める(下社は担当地区が固定されているので抽選はない)。上社の8本は本宮に立てる「本宮一」「本宮二」「本宮三」「本宮四」と、同じく前宮の一~四となっており、各御柱を複数の地区が合同で担当する。最も太くて大きい「本宮一」を当てることが地区の名誉とされているため、本番2か月前に行われる抽選式は毎回大変に盛り上がる。
ところで、氏子というのは、住民票などによらず、なんとなく「そこの住民」であれば勝手になっているもののようである。とはいえ、僕は、諏訪の古の歴史とは断絶された山の別荘地に暮らす移住民であり、なおかつ今も東京に片足を置いているような生活をしている。だから、自分が氏子として祭りに参加できるのかどうか、地域の人の説明ではOKらしいのだが、どうも半信半疑であった。そんな遠慮じみた気持ちもあって、結局、「山出し」の1日目と2日目は東京で仕事があったことも重なって、今回は自分の地区の御柱にはこだわらずに、3日目に集中してクライマックスシーンを見物することにした。
ここで上社の「山出し」について、もう一度おさらいしておきたい。御柱は、御柱年の2年前に山で選定される。これを切り出して八ヶ岳山麓のスタート地点に集める。そして、大勢の氏子が綱を持ち、道路を引きずる形で、3日間かけて約20キロの行程を曳行する。上社の御柱には前後に「メドデコ」というV字型の角のようなものがつけられ、これに若者が鈴なりになって乗る。山村部の狭い急カーブ(大曲)などの難所を経て市街地に出るとJRの線路の手前に斜度27度の土の急坂があり、ここを一気に下るのがテレビ映像などでよく見る「木落し」だ。
その後、さらに中央自動車道の高架をくぐると、市街地を横切る宮川を渡る「川越し」がある。下社の「木落し」の方が勇壮かつ危険だとして有名だが、川を渡るシーンは下社にはない。そのため、上社の最大のクライマックスは「川越し」だと言われている。