問わず語りで聞くフィリピンのシングルマザーの半生
ニューヨークとマニラを結ぶ携帯電話
夕方6時頃にマリソルの携帯電話が鳴った。ニューヨークのアパートからのキムさんの定期コールのテレビ電話。マリソルはキムさんに二女の入院など報告している。 マリソルがキムさんに挨拶してくれというので、放浪ジジイはキムさんとテレビ通話した。英語の発音がきれいで聞き取りやすい。髭を剃ってワイシャツ姿のキムさんからは分別のある働き盛りのビジネスマンのような印象を受けた。落ち着いた口調で放浪ジジイの旅程を尋ね道中くれぐれも安全に配慮するよう忠告してくれた。挨拶が終わりマリソルに携帯を返すとマリソルはさらに5分くらい通話してから電話を終えた。
マリソルの幸せを祈る
キム氏と話して放浪ジジイのキム氏のイメージは変わった。キム氏は人間的に尊敬すべき紳士のようだ。初対面の赤の他人に対してさりげなく気遣いする余裕がある。 キム氏が日常生活で自分が譲れない条件をマリソルに名言しているのは、お互いに無理せず長く交際してゆくための“方便”のようにも思われた。良い方に解釈すれば、2年後の引退後の生活設計を確言しないのも2人の距離感を測りながら、周辺環境の変化を確認しつつ持続可能な将来設計を具体化したいというキム氏の深慮なのだろうか。 キム氏が引退する2年後にはマリソルの二女も就職している。ニューヨークからの帰途マニラで2人が過ごす2週間の間に将来設計が描けるのではないか。マリソルの後半生に幸あれと願った。 以上 次回に続く
高野凌