問わず語りで聞くフィリピンのシングルマザーの半生
ベビーの母親はドバイの米国系ホテルのマネージャー
マリソルが世話しているベビーの母親は、ドバイで働いており留守宅であるマンションにはベビーの祖母が一緒に住んでいる。ちなみに親に子どもを預けて海外に出稼ぎに行くというのはフィリピンでは極めて一般的である。 この祖母にベビーが懐かないので日頃から持て余しているらしい。バスに乗っている間に祖母から2回もマリソルの携帯に電話がありマリソルが電話口で子どもをあやしていた。1週間の休暇をもらっていたが、祖母は電話で1日も早くマニラに戻るよう要求した。
シングルマザーで2人の娘を育てる苦労
マリソルは二十歳になる前に兵隊と結婚。すぐに長女を出産。そして24歳で二女を妊娠中に夫の浮気が発覚して離婚。当時旦那は軍曹。陸軍事務所の仲介で正式離婚。2人分の養育費は当初6カ月間だけ振り込まれたが元旦那は陸軍を退役して雲隠れ。陸軍事務所の弁護士にも掛け合ったが退役すると陸軍としては打つ手がなく泣き寝入り。 その後はシングルマザーとして働きながら必死に子育て。長女は既に結婚して2人の子供の母親となった。長女の旦那は船乗り(seaman)で真面目な人柄なのでマリソルは心底安堵している。フィリピンでは外国航路の船乗りは安定した職業の高給取りとして人気職種である。マリソルは二女が高校を卒業して就職したら母親としての重荷も軽くなると期待した。
13年越しの恋人は韓国人ビジネスマン
11時頃にバスは休憩のため10分ほど停車。マリソルは休憩から戻ってくると、雰囲気が変わって艶っぽくなっていた。化粧してオバサン眼鏡を外して髪の毛も梳かして来た。マリソルの経歴から計算するとまだ42歳なのだ。 マリソルはしばらくすると自分には韓国人のキムという13年付き合っている恋人がいると話し始めた。あまり積極的に聞きたい話題でもないので、仕方なくマリソルの話を黙って聞いた。 キムさんは背が高くてハンサムで知的で流暢な英語を話すと、マリソルは臆面もなくのろけた。そして携帯電話の写真を見せた。キム氏は180センチ以上の長身で偉丈夫。知的で端正な風貌。年齢は70歳で放浪ジジイと同年代。しかしキム氏は髪の毛も黒々としており、50代に見える。 キム氏はバツイチで独身。キム氏は仕事の関係でマニラに10年滞在。その間マリソルはキム氏のアパートへ“通い婚”状態だったようだ。キム氏はマニラでの仕事が終わると、次はニューヨークに仕事を見つけた。現在はニューヨークで化粧品のセールス・マネージャーのような仕事をしているらしい。2年後に雇用契約が終了したら、2週間ほどマニラに来てマリソルと過ごして、それから韓国の故郷に戻るという人生設計らしい。