問わず語りで聞くフィリピンのシングルマザーの半生
潔癖症のキムさんは自分ファーストなのか
キムさんが引退して韓国の故郷に戻った後も、定期的にマリソルに会いにフィリピンに来る計画なのかどうかマリソルに尋ねてみると、マリソルは今一つ確信が持てない様子。 一連の話によるとキム氏は真面目に仕事をするタイプだが金銭的に余裕があるようには見えないとのこと。でもマリソルのことを大事にしてくれる誠実な紳士だという。 キム氏は韓国料理以外を全く食べないという偏食家。そして煙草や排ガスが大嫌いなので引退後マニラで暮らすことを忌避。逆に韓国の田舎にマリソルが行けば近隣の好奇の目に晒されるとキム氏は難色を示す。 キム氏はきれい好きで部屋が散らかっていると不機嫌になり、洗面所にマリソルの髪の毛が一本でも落ちていると嫌味を言いながらゴミ箱に捨てるという。 放浪ジジイがマリソルに「キムさんはマリソルを愛していると言いながら、自分の価値観を最優先するエゴイストのように思えるけど。お金についても吝嗇家でマリソルに気前よくお金を使うことはしない。食べ物の嗜好、煙草や排ガスの臭い、病的な清潔好き、いずれも自分の価値基準を押し通し最優先している。結局マリソルと一緒に暮らせない理由を次から次へと並べているだけではないか」とキム氏の言動に関する疑問点を少し意地悪に指摘した。
キムさんは友達に自慢できる恋人
マリソルはやや気分を害したのかしばらく沈黙が続いた。そのあとマリソルは「でも私の友達はみんな、キムさんのような素敵な恋人がいて羨ましいと言うのよ」と言った。 マリソルにとりキムさんは世間に自慢できる存在なのだろう。長身でハンサムな知的で流暢な英語を話す韓国人の恋人は、貧しいシングルマザーのマリソルにとり、プライドの源泉であり生きる力を与えてくれる存在に違いない。キムさんと付き合い始めた13年前、当時29歳のマリソルは小学生と幼児の2人を抱えて生きてゆくだけで精一杯の毎日だったろう。
平均的なニホンジンのオジサンと比較したら
マリソルはさらに話をつづけた。マリソルの女友達の1人がニホンジンと付き合っていた。マリソルも知っているが、背が低くデブの禿茶瓶で品がない“シャチョーサン”とのこと。こうしたタイプのニホンジンは、マニラでは沢山いるとマリソルは強調した。確かにキム氏と比較したら“月とスッポン”だ。しかもそのシャチョーサンはこっそりとマリソルにも言い寄って来たという。 フツウにマニラで家政婦やベビーシッターをしていたら、日本人や韓国人のビジネスマン出会うことはないだろう。マリソルは若いころ子供の養育費を稼ぐために水商売に関わっていたのであろうと筆者は想像した。家政婦やベビーシッターの平均賃金水準では自分1人が暮すのがやっとであり2人の子供を学校に通わすのは不可能だ。 参考までにフィリピンでは幼稚園から高校まで13年間が法律上は義務教育である。しかし貧困のため就学を継続できず、高校卒業証書(ディプロマ)を取得できるのは児童全体の60%未満である。