ロータリーLOVE! マツダ「RX-8ハイドロジェンRE」は水素燃料エンジンの先駆けだった【歴史に残るクルマと技術071】
この10年の間に水素エネルギーを活用する水素社会の実現が叫ばれるようになり、水素エンジンも大きな注目を集めている。日本では、マツダが2000年以前から水素ロータリーエンジンの開発に積極的に取り組み、2006年ガソリンと水素の両方を燃料として走行できるデュアルフューエルシステムを搭載した「RX-8ハイドロジェンRE」のリース販売をスタートさせた。 TEXT:竹村 純(JUN TAKEMURA)/PHOTO:StartYourEnginesX/clicccar マツダ「RX-8ハイドロジェンRE」の詳しい記事を見る マツダ水素エンジンの歴史 水素を燃料にしてエンジンで燃焼させる水素エンジンは、理論的には燃焼によって水は生成するが、CO₂は排出しない「カーボンニュートラル(脱炭素)なエンジン」である。また既存のエンジンの改良で対応できるので、FCEV(燃料電池車)のように大きなコストアップがないという大きな利点がある。 水素エンジンを積極的に進めたメーカーは、日本ではマツダであり、海外ではBMWである。BMWは、2006年に「ハイドロジェン7」を100台限定で市場に投入した。 マツダにおける水素ロータリーエンジンの開発の歴史は古く、初めて公表したのは1991年の東京モーターショーで展示した水素ロータリーエンジン車「HR-X」である。1993年には、第2号車となる「HR-V2」とユーノスロードスターに水素ロータリーエンジンを搭載した「ロードスターHV(Hydrogen Vehicle)」を公開した。 1995年になると、「カペラ・カーゴHV」が水素自動車として国内初の大臣認定を取得。公道での走行試験を行ない、4年間で約4万kmを走行して実績を残した。その後、経営不振やフォード傘下への体制変更によって、水素ロータリーエンジン車の開発は一時的に停滞した。 しかし、2003年のロータリー車「RX-8」デビューを機に、水素でもガソリンでも走れる“デュアルフューエルシステム”の開発に着手したのだ。 ハイドロジェンREのベースとなったRX-8 マツダは、1967年に「コスモスポーツ」でロータリーエンジンを世界で初めて量産化した。以降、高性能のロータリー車を次々と市場に投入したが、1970代に始まった排ガス規制対応や市場の燃費志向の高まりを受けて、1980年代には徐々にロータリー車は敬遠されて市場から淘汰されるようになった。 そのような中で、改良を進めたロータリースポーツ「RX-8」が2003年にデビューした。RX-8は、Bピラーレス/観音開き/4ドアのダイナミックなスタイリングを採用し、13B-RENESIS(654cc×2ローター)ロータリーエンジンを搭載。RENESISは、全域で高性能を発揮するシーケンシャルダイナミックエアインテークシステム(D-DAIS)を採用し、NA(自然吸気)ながら最高出力250psを誇った。 しかし、スポーツカー市場が冷え込んでいたこともあり、RX-8は2012年に生産を終え、結果として最後のロータリーエンジン車となった。ちなみに、2023年11月にロータリーエンジンを発電機として使う「e-SKYACTIV R-EV」を搭載したコンパクトSUV「MX-30」でロータリー復活を果たしたが、これはロータリーエンジンを主動力としないPHEVである。 また、e-SKYACTIV R-EVは2024-2025 日本カー・オブ・ザ・イヤーで実行委員会特別賞を受賞した。 RX-8ハイドロジェンREのリース販売を開始 上記のRX-8をベースにしたデュアルフューエルハイドロジェンREは、RENESISロータリーエンジンのガソリン噴射に加えて、1ローターにつき2本のガスインジェクターを装着して水素を直接噴射する。ガソリンでも水素でも走行可能で、運転席のスイッチで燃料を切り替えることが可能だ。 110L(35MPa)の高圧水素タンクと61Lのガソリンタンクを搭載し、水素使用時には最高出力109ps/最大トルク14.3kgm、ガソリン使用時は210ps/22.6kgmを発生。また、航続距離(10-15モード)は水素使用時100km、ガソリンでは549kmを達成した。 デュアルフューエルシステムは、CO₂排出量ゼロの水素エンジンとガソリンロータリーエンジン特有の力強い走りを両立させ、水素の充填ができない環境下でも、ガソリンで走れることが大きなメリットである。RX-8ハイドロジェンREは、2004年に国土交通大臣の認定を受けて10月から公道試験をスタートした。 2年後の2006年には、エネルギー関連企業や広島県など地方公共団体へ42万円/月でリース販売を始めた。 最近の水素エンジンの動向 2021年11月に、トヨタ、スバル、マツダ、ヤマハ、川崎重工の5社が、内燃機関を活用したカーボンニュートラルの取り組みについて発表。その席上で、ヤマハの5.0LのV8水素エンジンが披露され、大きな注目を集めた。具体的な発表内容は、水素エンジンでのレース参戦、カーボンニュートラル燃料を活用したレースへの参戦、2輪車での水素エンジンの活用の3つの取り組みである。 トヨタは、2021年から富士24時間レースに高圧水素を搭載したGRカローラで参戦し、2023年からは世界初の液体水素燃料を使ったカローラで参戦して、水素エンジンとしての性能や信頼性の向上を図っている。その他にも、各メーカーは水素エンジンだけでなく、合成燃料やバイオ燃料を使ったカーボンニュートラルエンジンの開発に取り組んでいる。 RX-8ハイドロジェンREが誕生した2006年は、どんな年 2006年には、マツダ「RX-8ハイドロジェンRE」以外にも三菱自動車「i(アイ)」、スバル「ステラ」、ダイハツ「ビーゴ」などが誕生した。 i(アイ)は、近未来的なスタイルのミッドシップ軽自動車として注目され、ステラは「ワゴンR」や「ムーヴ」を追走するためスバルが放った軽ハイトワゴンである。ビーゴは、小型SUVでトヨタにOEM供給されてラッシュとしても販売された。また、一世を風靡したトヨタ「セリカ」とホンダ「インテグラ」が生産を終了、ひとつの時代が終わった。 自動車以外では、ワンセグ放送が始まり、携帯電話やカーナビなどTV番組が視聴できるようになった。また、ガソリン126円/L、ビール大瓶201円、コーヒー一杯442円、ラーメン566円、カレー684円、アンパン140円の時代だった。 ・・・・・・・・ マツダが誇るロータリーエンジンを利用した水素エンジン搭載車「RX-8ハイドロジェンRE」。現在カーボンニュートラルエンジンとして注目されている水素エンジンを20年近く前に実用化レベルまで引き上げた、日本の歴史に残るクルマであることに間違いない。
竹村 純
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