ネット広告の闇を探る! 企業も無視できないSNS広告詐欺とMFAサイトの実態
悪質なデジタル広告がなくならない理由
違反広告が横行する「カオス」な状況にありながら、なぜ規制や取り締まりが進まないのだろうか? 問題が解決しない要因として、以下が考えられる。 ■ 景品表示法の限界
景品表示法では、行政処分の対象は「広告主」なので、広告主の企業とその経営者が対象となる。一方、広告主の株主や、広告主と取引関係にあるコンサルタントや広告制作事業者、プラットフォーマーを処分することは基本的にはできない。
その結果、たとえ広告主が処分されたとしても、株主が新しい「広告主」となる会社を立ち上げ、既存の取引先と違反広告を継続していくようなケースがある。 このスキームについては行政も認識はしており、消費者庁の報告書では「特に悪質な広告主の背景には、当該広告主の出資会社やコンサルタント会社の存在があり、広告主は出資会社やコンサルタント会社の隠れ蓑にすぎないという実態がある」(中略しつつ引用*)との記述もある。 ・*アフィリエイト広告等に関する検討会 報告書(2022年2月) ■ プラットフォーマーがチェックしきれない
掲載面をもつプラットフォーマーの広告審査が追いつかず、それに乗じて違反広告を出す事業者が存在する。その構図を表したのが次のスライドだ。
・【理想】 広告企業が広告を入稿→プラットフォーマーがチェックしてOKを出す→掲載される ・【現実】 広告企業が広告を入稿→プラットフォーマーがチェックしてOKを出す→掲載される→広告企業がLP(ランディングページ)を詐欺的なものに差し替える(URLはそのまま) 「現実」では、プラットフォーマーの審査後に広告企業がLPを詐欺的なものに差し替える、ということが起こっている。LPの差し替えというのは、URLはそのままで、LPの内容を変えてしまうということだ。 とはいえ、広告審査後にLPの内容を変更することは、「A/Bテスト」として広く行われていることでもある。LP内容の変更が一律に悪とは言い難く、広告プラットフォーマーとしては対処が難しい面もある。 広告プラットフォーマーのYahoo!(現、LINEヤフー)も、消費者庁の検討会(2021年)で「媒体社として広告審査を強化しても、業界全体の品質維持・向上への効果には限界があることを感じています」と審査の限界について言及している。 ┌────────── この言及内容は正直である一方、責任を投げ出している面もあります。悪い広告が出ていると認識しつつ、それを表示しているということなのですから(土橋氏) └────────── もちろん媒体社も、広告考査の質を上げようと模索している。最近ではAIを活用し、肌の露出や射幸心を煽る表現などを検知するようになっている。「しかし効果は限定的であり、いたちごっこは今後も続くだろう」と明坂氏は予測する。 土橋氏はMetaなどプラットフォーマーの姿勢に対し、次のように厳しく指摘する。 ┌────────── 広告の量が多すぎてAIを使ってもチェックしきれないと言っているが、そもそもチェックできない量の広告を受け入れていることが問題。受け入れるのであれば、大きなコストをかけてでもチェックすべきです(土橋氏) └────────── ■ エコノミクスの問題 エコノミクス(経済システムの設計)がMFAや違反広告の温床になっている面もある。 エコノミクスが及ぼす影響の代表例として、Xの「インプレゾンビ」がある。Xでは影響力が大きい有料会員ユーザーは、自分の投稿のインプレッション数に応じて報酬を受け取ることができる。その結果、パクツイ(パクリツイート)やAI投稿Botなどでインプレッションを稼ごうとするユーザーが現れ、「インプレゾンビ」として問題視されている。 インプレゾンビが出現するのは、インプレッションを稼ぐ労力よりも、インプレッション収益のリターンの方が大きいというエコノミクスに起因している。仮に収益を得られるアカウントを「過去半年間でスパム報告を1度もされたことがないアカウント」などに限定すれば、インプレッションを稼ぐ労力が大きくなり、インプレゾンビは成立し得なくなるだろうが、現状のままではエコノミクスの問題はなくならない。 ■ 悪質広告による売上への依存