まさに「弘法も筆の誤り」…《稀代の天才》アインシュタインが悔やんだ「生涯最大の過ち」
人のサイズ、銀河のサイズ、宇宙のサイズ
しかし、この風船の描像は、いくつかの点で誤解を生む可能性のある例えでもあります。一つには、宇宙膨張とは「宇宙全体のサイズ」が大きくなっていくことである、というイメージを与えてしまう点です。実際には必ずしもそうとは限らず、図1‒2に示すように、宇宙全体のサイズが、最初から無限だという可能性もあるのです。 宇宙の膨張とは、銀河間の距離といった、宇宙の異なる点の間の距離が一様に大きくなっていくことであって、これは必ずしも宇宙全体が有限であって、そのサイズが時間とともに大きくなっていくということを意味するわけではないのです。 また、風船の例では風船の表面はその周りの空間の中を広がっていきますが、実際には、風船における表面で例えたようには、宇宙は何かの中に広がっていくわけではありません。先にも述べたように、宇宙膨張とは宇宙の異なる点の間の距離が一様に大きくなっていく現象のことです。そしてこの現象は、宇宙が何かより高い次元の空間に埋め込まれているということを意味しません(風船の例では、2次元面である風船の表面は周りの3次元空間に埋め込まれています)。 これらをまとめて簡単に言うと、宇宙膨張とは空間自体が膨らんでいく現象だと言うことができます。この膨張にしたがって銀河間の距離は広がっていくので、物質の密度は増大する体積に反比例して小さくなっていくことになります。これは図1‒1の一番右の宇宙で、一様な物質の密度が時間とともに(一様なまま)小さくなっていくという描像に対応します。
膨張の影響を打ち消す原子と重力の働き
ここで、空間が膨張していくという概念が引き起こすかもしれない混乱についても説明しておきましょう。空間が一様に膨張していくという言葉を聞くと、銀河を構成している恒星の間にも空間は存在しているので、恒星間の距離も広がっていくと思われるかもしれません。もし仮にこれが正しいとしたら、銀河間の距離が2倍になれば恒星間の距離も2倍になり、そのため銀河のサイズも2倍になるという結論になります。もっと言えば、人間を構成している原子と原子の間にも空間は存在しているので、もしそれらも全て2倍になるということであれば、人間のサイズも2倍になるということになります。 もしこの描像が正しいならば、人間の大きさ(や銀河の大きさやその他あらゆるもの)を基準にして計ったときの銀河間の距離は常に同じだということになります。これはある意味、宇宙が膨張しているという結論に反します。なぜなら、銀河間の距離も定規のサイズ(距離の測定の基準となるあらゆる計器)も同じように大きくなっていくからです。このことから、この描像は正しくないとわかるのですが、どこが間違っているのでしょうか? それは、人間のサイズは原子同士の間に働く力によって決まっているという事実が、抜けているからです。つまり、原子の間の空間が膨張したとしても、これらの力がすぐに原子間の距離を元の大きさに戻してしまうわけです。そのことを考えれば、空間が膨張しても人間の大きさは変わらないことがわかります。 同じことは、銀河のサイズに関しても言えます。具体的には、恒星の間の距離は恒星間に働く重力や運動エネルギーなどのバランスによって決まっており、空間が膨張したとしてもこのバランスが恒星間の距離、すなわち銀河のサイズをすぐに元の大きさに戻してしまうのです。 一方で、銀河間の距離に関してはこのようなメカニズムは働きません。銀河同士はあまりにも離れているので、(少なくとも十分離れた銀河同士に関しては)その間に働く力は無視できます。そのため、空間が膨張するとそれに応じて銀河間の距離も大きくなっていくのです。これが、宇宙膨張が図1‒2のように、点(銀河)の大きさは変わらずにその間の距離だけが大きくなっていくように表される理由です(そしてこれも、風船の例えが正しく捉えることができない事柄の一つです)。 * * * さらに続きとなる記事<1998年「宇宙は加速しながら膨張している」という「観測結果」に世界中が騒然!その事実から導き出される「ダークエネルギーの存在」…その正体に迫る!>では、ダークエネルギーについて詳しく解説しています。
野村 泰紀(バークレー理論物理学センター長・カリフォルニア大学バークレー校教授)