まさに「弘法も筆の誤り」…《稀代の天才》アインシュタインが悔やんだ「生涯最大の過ち」
宇宙観を一変させる発見
20世紀の科学の最大の発見の一つに、私たちの宇宙はずっと同じ状態で存在しているわけではなく膨張を続けていることを見つけた、ということが挙げられます。今では広く知られることになったこの事実も、発見された当初は私たちの宇宙観を一変させるものでした。 この宇宙が膨張をしているという発見に至るプロセスは、科学の大きな進展がどのようにして起こるかの一つの典型例であり、それ自体非常に興味深いので、ここで少し紹介することにします。 始まりは、1916年、アインシュタインが重力を時空の幾何学として記述する一般相対性理論を完成させたことです。この理論はニュートンの重力理論を、アインシュタイン自身が1905年に発表した相対性の原理と矛盾しないように拡張したもので、物理学の歴史上でも最も美しい理論の一つといわれています。アインシュタインは、すぐにこの一般相対性理論を、宇宙全体に適用しようとしました。その結果、宇宙は膨張するか、収縮するかのどちらかでしかないという結論に行き着きました。それは当時の、宇宙というのは「常にそのままそこにある」ものという常識とは合致しない結果だったのです。 アインシュタインはこの結果を受け入れられず、それまでの常識である、膨張も収縮もしない「常にそのままそこにある」宇宙が得られるよう一般相対性理論を修正しようとしました。そしてそれは一見うまくいったように見えました。ところが、修正によって理論には余分な構造が付け足されてしまい、また得られた定常な宇宙も非常に不安定なものになってしまいました。例えて言えば、この宇宙は、絶妙なバランスがあればコマは回らずともずっと立っていられると主張するようなものだったのです。
アインシュタイン生涯最大の過ち
この望ましくない状況は、1929年に宇宙膨張の証拠が観測的に見つかったことで劇的に変わります。証拠を発見したのは、アメリカの天文学者、エドウィン・ハッブルです。ほぼ同時期にベルギー出身の宇宙物理学者でカトリック司祭でもあるジョルジュ・ルメートルも、同じ結論に達しています。ハッブルの発見を受けてアインシュタインは、自分の試みた理論の修正が自身の人生最大の過ちであったと語った、と伝えられています。アインシュタインほどの天才でさえも、常識を打ち破るのは簡単なことではなかったのです。 さて、ハッブルが実際に見つけたのは「ほぼ全ての銀河は地球から遠ざかっており、またそのスピードは遠くにある銀河ほど速い」ということなのですが、これはまさに「宇宙が膨張している」ということなのです。 これを理解するには、風船の上にほぼ一様に点を描き、それを膨らませることを考えるとよいでしょう。ここで、点は銀河を表し、風船の表面は宇宙を表すとします。もし、私たちがこの点の中の一つ(ある銀河)に住んでいるとすると、全ての点(銀河)は私たちから遠ざかっているように見え、また遠くの点(銀河)ほど速く遠ざかっているように見えるでしょう。すなわち、まわりの銀河がこのように振る舞うということは、宇宙が膨らんでいるということを意味するのです。