まさに「弘法も筆の誤り」…《稀代の天才》アインシュタインが悔やんだ「生涯最大の過ち」
宇宙論の扱う宇宙
この本のテーマは「宇宙論」。読者諸氏は宇宙といったときにどんなものをイメージするでしょうか。もちろん具体的な興味や教育の段階、専攻などによって様々だと思いますが、多くの人は地球を含む太陽系、それらが集まってできた銀河、またはもっと大きな空間に存在するたくさんの銀河団等をイメージするのではないでしょうか。 もちろんこれは正しい描像で、そこに現れる惑星系、銀河、銀河団等は、今でも新しいことが次々とわかってきている非常に興味深い対象です。しかし、一般に宇宙論といったときの興味の対象は、これらの天体そのものではありません。それを調べるのはどちらかといえば天文学や天体物理学と呼ばれる分野であって、宇宙論の対象は宇宙のより全般的な性質、たとえば宇宙全体の「形」はどうなっているのか、宇宙はどのようにして始まり、どのような終わりを迎えるのかといった問いなのです。
宇宙の一様性と等方性
このような観点からすると、惑星系や銀河、銀河団の構造でさえも宇宙論にとっては「細かなもの」であると言うことができます。つまり、これらの構造は宇宙全体に比べれば比較的小さな構造であり、よって宇宙全体やその歴史を記述するうえでは、あまり本質的ではないのです。 もちろん、これは銀河等の天体が今の宇宙に存在するという事実が、宇宙論にとって重要でないということではありません。実際に、現在観測される銀河等の構造は、正しい宇宙論を導くうえで決定的な情報を与えてくれます。しかし、一度それらの情報が宇宙全体の性質に対してどのような意味を持つのかを理解してしまった後は、個々の銀河等の詳細などは宇宙論を展開するには必要がないのです。 このような理由で、宇宙論で宇宙を扱うときには、往々にして銀河等の構造が識別できないほどの大きなスケールを考えることが多くなります(図1‒1)。すると、図の一番右に示されるように、宇宙にはどこでも同じように物質が存在していると考えることができるようになります。 この、平均化すれば宇宙はどこでも同じ(たとえば、物質の密度が同じ)という性質は宇宙の一様性と呼ばれ、観測的にも確かめられています。また、宇宙のある一点から周りを眺めた場合、どの方向を見ても(平均化すれば)同じように見えるという性質は宇宙の等方性と呼ばれ、これもまた観測で確認できる限りでは正しいということがわかっています。 まとめると、宇宙論で扱う宇宙は、ほぼ一様等方に分布した物質で満たされた、ほぼ一様等方な空間、として考えることができます(ここで「ほぼ」という言葉を入れた理由は、後に詳述します)。実は、第2章で述べるように、この一様等方な宇宙という描像は、ここで説明した以上に宇宙──特に初期の宇宙──のモデルとして適切だということがわかります。しかしその話に入る前に、この章の残りでは、銀河や銀河団等の構造を調べることによってわかる現在の宇宙の姿について述べていくことにします。