多くのオーナー経営者が「M&A」を検討せざるを得ない状況だが…そもそも「事業承継」にはどんな選択肢があるのか?【専門家が解説】
【選択肢2】リリーフ
株式会社においては、株主(オーナー)が経営者に経営を託す、いわゆる所有と経営の分離の原則が取られていますので、必ずしも次の経営者が株主である必要はありません。後継者候補が親族内にいるものの、まだ経営を担うには若すぎるといったケースでは、外部あるいは役員・従業員から適任者を任命し、後継者候補へバトンをつなぐ役割を担ってもらうこともあり得ます。 ただし、リリーフで任命するオーナーシップ(=所有権)を持たない経営者に、オーナー経営者と同じ覚悟や責任を求めるのは難しいと感じるケースも多いのではないでしょうか。中長期の会社の成長を実現するためには、中長期の目標と連動させた報酬・インセンティブ設計を行うなどの工夫も重要になるでしょう。
【選択肢3】MBO/EBO
リリーフにも難しさを感じるケースでは、役員・従業員に事業の所有権・経営権を託していく選択肢も考えられます。これをマネジメント・バイアウト(MBO)といったり、エンプロイー・バイアウト(EBO)といったりします。現役員・従業員が所有権を取得し経営を担っていくため、一般的に、外部企業と行うM&Aと比べて社内の理解を得やすいメリットがあります。 他方、非上場企業におけるMBO・EBOの一番の難しさは、役員・従業員への株式の譲渡により、オーナー経営者が希望する対価の実現が難しい点にあります。すでにオーナー経営者個人として十分な資産を株式以外に蓄えているケースでは実現しやすいかもしれませんが、多くのオーナー経営者は引退後の生活資金や子供へ残す財産を考えて、一定の対価を期待することが多いのが実情です。 一方、ファイナンスの工夫によってオーナー経営者に一定の対価を支払い、MBO・EBOを実現できる場合もあります。具体的には、中小企業のM&Aにおいては、銀行が提供するコーポレートローンを活用する選択肢があります。コーポレートローンは後述するLBOローンと比べ融資枠が小さいものの、利息負担が低く、MBO・EBO実行後の安定経営に資する側面もあります。さらには、セラーズ・ファイナンスといって、売主となるオーナー経営者に、MBO実行後の一定期間、会社に対して貸付をしてもらう選択肢もあります。ただし、いずれのファイナンスの活用も対象会社が安定的にキャッシュ・フローを生んでいることが必要で、活用できる会社は限られるといえるでしょう。 なお、M&Aファイナンスにはメガバンクが中心となって提供しているLBO(Leveraged BuyOut)ローンというものがあり、大型のM&A案件を中心に融資が提供されています。一般的に利率が高く設定され(執筆時点において2-3%台、大型案件で高レバレッジを提供するローンではさらに高い利率が適用される)、融資額としてはEBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)といわれる利益指標に対して3-7倍(場合によってはそれ以上)の水準で提供されるもので、M&Aの活性化をファイナンス面から支えています。ただし、このLBOローンは主に10億円単位以上のM&A取引を対象としており、残念ながら多くの中小企業M&Aにおいては提供されていません。