【社説】韓国大統領弾劾 真相究明し混乱広げるな
民主主義の危機を訴える国民の声に応えた判断である。韓国国会は「非常戒厳」を宣言した尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の弾劾訴追案を可決した。 尹氏の職務は停止された。当分の間は事実上の大統領不在となり、職務は韓悳洙(ハンドクス)首相が代行する。与野党は政治の混迷を最小限に抑えなくてはならない。 弾劾案は「非常戒厳は憲法違反」と主張する野党が提出した。1度目は与党が投票を棄権して廃案になったが、今回は与党の一部も賛成した。 直近の世論調査では弾劾への賛成が75%に達していた。連日の大規模デモで尹氏の罷免を求める国民の反発に、与党議員はあらがえなかったのだろう。 採決の2日前に尹氏が国民に発した談話も、弾劾可決の決定打になったと言える。 異例の非常戒厳を「野党の議会独裁に対抗するため」の統治行為と正当化し、大統領辞任を否定した。反省はうかがえなかった。 さらに野党が大勝した4月の総選挙について、北朝鮮からの影響を受けた不正選挙の疑いがあると述べた。 こうした主張は、一部のユーチューバーや極右団体が唱える真偽不明の「陰謀論」と類似している。国民に強い違和感を与えた。 尹氏や非常戒厳に関与した軍と警察のトップに対して、内乱罪などの容疑で捜査が始まっている。 突然の非常戒厳は多くの謎に包まれている。捜査を通じて真相と大統領の責任を明らかにしてもらいたい。尹氏は捜査に応じるべきだ。 今後は憲法裁判所が180日以内に弾劾の妥当性を審理する。憲法裁が妥当と判断すれば、尹氏は罷免される。 弾劾訴追された韓国大統領は1987年の民主化以降、盧武鉉(ノムヒョン)氏、朴槿恵(パククネ)氏に次いで3人目だ。朴氏は憲法裁の判断で罷免された。 今回の非常戒厳は保守派と革新派の激しい対立と、それがもたらす社会の断絶を改めて印象づけた。韓国が抱える大きな難題だ。 韓国政治の混迷はトランプ次期米政権下の日米韓協力をはじめ、国際情勢に影響を及ぼす。政治空白に乗じ、北朝鮮が挑発行為を一段と強める恐れがある。 韓国の対外イメージにも響く。韓国を訪れる外国人観光客は減り始めている。外国からの投資控えも起こり得る。 経済や国民生活へのしわ寄せを防ぐのは政治の責務だ。政治の停滞を避ける点では与野党の協力が欠かせない。 尹氏の強いリーダーシップで改善が進んだ日韓関係への影響も憂慮される。今の政情で尹氏が罷免されて大統領選が行われると、日本との関係強化に否定的な政権が誕生する可能性がある。 日韓関係が深刻な痛手を被らないように、日本政府は外相同士で意思疎通を継続するなど、十分な対応を取る必要がある。
西日本新聞