マイナ保険証へ「一本化」は“医療の質の低下”と“税金の無駄遣い”を招く? 専門家が警鐘…“現場”で続発する「不都合な事態」とは
国民の利益につながっていない「医療DX推進」
以上のほかに、マイナ保険証への対応が困難であることを理由に廃業を予定している医療機関があること等が指摘された。 また、救急医療の現場で、救急隊員がマイナ保険証を活用して医療情報を知ることによる「救急業務の迅速化・円滑化」の取り組みについても、現場での対応の実情や実験結果を示したうえで、非現実的だとの指摘がなされた。 本記事で、シンポジウムで指摘されたすべての問題を取り上げることはできない。また、参加した専門家のなかにさえ、シンポジウムに参加して初めて知った問題点があると述べた人もいた。 なぜ、ここまで現場の実情を踏まえていない問題が指摘されるにもかかわらず、「マイナ保険証への一本化」が強力に進められているのか。 山崎医師は、そもそも政府が提唱する「医療DX」が国民の利益を主眼に置いたものではないと指摘する。 山崎医師:「そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)という概念は、 2004年にスウェーデンのウメオ大学のストルターマン教授が提唱したもの。 ICT(情報通信技術)の浸透によって、人々の生活があらゆる面でより便利になっていくように変化させていくことをさす。 ところが、国がマイナ保険証等によって推進しようとしている『医療DX』は、国民皆保険制度を使って、医療機関を介在させ、すべての国民の情報をコントロールする方向へ持っていくもの。 本来のDXの世界標準からズレたスタンスのものになっている」 パネルディスカッションの司会をつとめた神奈川大学法学部教授の幸田雅治教授(弁護士)も指摘する。 幸田教授(神奈川大学):「台湾の情報担当相を務めたオードリー・タン氏は、デジタル化は国民へのエンパワーメント(力を与えること)だと言っている。 マイナ保険証への一本化は真逆の効果をもたらすものであり、本末転倒だと感じられる」
「デジタル化」と「利便性向上」は“別の問題”
デジタル化の推進と、医療サービスの向上等の国民の利便性向上とは、本来まったく別の問題であり、論理的に区別して考えなければならない。 論理的にはデジタル化が利便性を妨げることすらありうる。また、現実にもその事態が発生している。国立情報学研究所の佐藤教授が指摘するように、そもそもマイナンバーカードは健康保険証として利用することを想定して設計されたものではない。 発生している問題のほとんどが、現行の健康保険証を残すことで解消されることに留意する必要がある。 本記事で紹介したのはあくまでも、シンポジウムで取り上げられた実務上の問題の一部にとどまる。後半では、セキュリティリスクの増大の問題や、人権侵害・憲法違反などの法的問題について取り上げる。
弁護士JP編集部