マイナ保険証へ「一本化」は“医療の質の低下”と“税金の無駄遣い”を招く? 専門家が警鐘…“現場”で続発する「不都合な事態」とは
薬剤情報は「1か月以上先」にならないと確認できない
山崎医師は、薬剤情報の反映に関して「タイムラグ」が発生せざるを得ず、それによって被保険者に不利益が生じることを指摘した。 マイナ保険証で確認できる薬剤情報はレセプト(診療報酬明細書)に基づいている。しかし、レセプトは医療機関から月ごとに提出される。ここにタイムラグが生じる。 山崎医師:「薬剤情報を確認できるようになるのは、レセプトに反映されてからなので、1か月以上先になる。 最も重要な直近の薬剤情報が得られないおそれがある。『おくすり手帳』によって確認するほうが確実ということになる」 世田谷区の保坂区長は、この点をさして、マイナ保険証への一本化の主目的が、国民の生命・健康を守ることよりも、マイナンバーカードを普及させることにあると推察されるとする。 保坂区長(東京都世田谷区):「国はマイナンバーカードを国民全員に持たせたいが、マイナポイント等の特典を設けてもなかなか普及が進まないので、マイナ保険証に一本化して、マイナンバーカードを使わざるを得ないように仕向けていると感じられる。 国民の生命・健康を守ることに根差した国民皆保険制度をしっかり守っていくという観点が非常に薄い制度設計で混乱を招いていると感じている」
老人福祉施設等での実態を踏まえていない
保坂区長は、マイナ保険証のしくみが、高齢者施設での実務の実態をまったく踏まえていないとも指摘する。 保坂区長(東京都世田谷区):「ほとんどの高齢者施設では実務上、入居者が病気やケガで医療機関に受診する際に資格確認等がスムーズにできるように、健康保険証をまとめて預かっている。 もし、マイナ保険証に一本化されたら、入所者が医療機関等を受診する際に、カードリーダーでの顔認証ができないケースや、認知症等によって暗証番号の入力が困難なケースが多発する。 また、マイナンバーカードを施設が預かるわけにもいかない。盗まれたり紛失したりすれば、財産などを狙われたり、プライバシーを除かれたりするリスクがあるので、施設と職員にかかる管理体制等の負担が大きすぎる。 そのような現場の声を受け、電子証明書機能のない顔認証マイナンバーカードが導入された。しかし、マイナンバーカードを持たない人等のための『資格確認証』と変わらないので、作成された例が少なく、制度として成果につながっていない」 在宅医療を受けている人についても同様の問題がある。しかも、高齢者施設に暮らす人や在宅医療を受けている人の多くは、そもそもマイナ保険証の前提となるマイナンバーカードの申請ができない。 保坂区長(東京都世田谷区):「国は、市区町村に対し、高齢者施設や個人宅への出張申請を求めている。 しかし、人口が多い世田谷区では、数多くの対象者がいて、対応が困難だ」 最も医療サービスを必要とするのは高齢者であるにもかかわらず、マイナ保険証への一本化によるしわ寄せが大きくなるリスクが高いということである。