まるで船のガレージ、海に接水した一階で船出し入れ。230軒並ぶ伊根舟屋群
初冬の丹後半島は少し小雨混じりの日が続いていた。高速道を降り国道178号線を走る。しばらくすると海を挟み並行して日本三景の一つ、天橋立が見えてきた。 約3.6km続く砂州には数千本の松が生い茂る。右手にその松林を眺めしばらく走ると、湾に突き出た半島沿いに木造の建物がぎっしり建ち並ぶ風景が見えてくる。映画やドラマのロケ地としても有名になった京都府伊根町の舟屋群。水際ぎりぎりに建つ家屋はまるで海上に浮かんでいるような不思議な風景だ。
日本三大ブリ漁場でもある伊根町。舟屋のある伊根浦の集落は約350世帯。海岸に沿っておよそ5km続く。今でも約230軒の舟屋が軒を連ねている。静穏で潮の干満差が少なく、岸から急に深くなる地形は舟屋にとって好都合だった。 かつては草葺で切妻面の柱が内側に傾く駒形をしていたが、戦後まで続いたブリ景気によってその多くが現在の瓦葺の二階建てに建て替えられたという。一階は船を収納し、二階は網干しや漁の道具の置き場として使われている。船を引き込みやすいように、一階は海に接水し緩やかな傾斜になっている。 伊根の子供達はここで水に親しみ、泳ぎを覚えた子も多いそうだ。そんな舟屋も時代の変化とともに一階で魚の調理や洗濯物を干すスペースとして利用し、二階を子世代の住まいなどの居室として使うことも多くなってきたという。舟屋から道を一つ挟んで主屋があり、そこが普段の生活の場となっている。
舟屋は個人宅なので勝手に立ち入る事は出来ないのだが、地元ガイドさんによるツアーがあり、舟屋の見学や創業260年の酒蔵での試飲、海底に沈めたカゴを引き上げるもんどり漁などを体験することができる。 ガイドをしてくれた上林さんが自宅に仕掛けたもんどりを見せてくれた。直径80cmぐらいのドーム型のカゴにさばいた魚のあらを入れておき、舟屋前の海に沈めておく仕掛けで、手軽に晩御飯が調達できるという伊根浦ならではのものだ。残念ながらこの日は一匹も獲物がかかっていなかったが、二、三日もつけておくと魚やタコがかかるそうだ。(つづく) ※この記事はTHE PAGEの写真家・倉谷清文さんの「フォト・ジャーナル<“舟屋と伝説の町” 京都府伊根町へ>倉谷清文第10回」の一部を抜粋しました。 (2017年11、12月撮影・文:倉谷清文)