習近平が進める「千人計画」、技術流出へのアメリカの対抗策と日本に欠かせない「戦略的不可欠性」とは?
核不拡散による安全保障は、単に輸出される技術を管理していればよいというものではない。2016年に中国はドイツのロボットメーカーであるKUKA社を買収し、これまで中国の弱みであったロボティクス分野の技術を企業買収を通じて強化することを試みていることが明らかとなった。 これまでアメリカでは対米外国投資委員会(CFIUS)35 によって外国資本による企業買収を通じた技術移転を管理してきたが、さらにその体制を強化するため、2018年に外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)36 を成立させ、技術流出に備えている。 しかし近年、高い技術を持つスタートアップ企業などを標的とした、中国資本による積極的な投資攻勢に対応するため、CFIUSが取り扱わなければならない案件が爆発的に増え、パンク状態になっているとも言われている。 また、2024年に入って発表された日本製鉄によるUSスチールの買収に関しても、大統領選挙を控え、政治的にセンシティブな事案としてCFIUSの審査が滞っている。この件は技術流出の懸念というよりは、政権にとって不都合な政治的混乱を生み出さないようにするための手段として使われた事例と言えよう。 さらに大きな問題となっているのは、人の移動に伴う技術流出である。これまでも退職者が外国企業に再就職することや、機微な技術を持つ研究者のヘッドハンティングなど、人の移動による技術流出が問題になってきたが、習近平政権の中国が「千人計画」と称する研究者の引き抜きを行なったり、中国人留学生を大量にアメリカなどに送り込んで、機微な技術をマスターさせるといったことに対する懸念が高まっている。 「千人計画」に対しては学者や技術者にも職業選択の自由があって、個人の移動を妨げることは困難である。また、大学経営上、中国人留学生が不可欠であったり、中国からの研究資金が重要な役割を果たしている場合が多く、安全保障上のリスクはありながらも、なかなか管理できずにきた。 35:The Committee on Foreign Investments in the United States 36:Foreign Investment Risk Review Modernization Act