習近平が進める「千人計画」、技術流出へのアメリカの対抗策と日本に欠かせない「戦略的不可欠性」とは?
アメリカでは、中国語を学習するための孔子学院を外国政府機関と同様に扱って管理をしたり、「研究インテグリティ(研究公正)」を保証するため、外国機関からの資金提供を受けている場合は国内での研究資金を獲得できないといったルールを作り、実施している。 こうした技術不拡散による安全保障も、経済的手段を通じて国民の生命と財産を保証するという意味で経済安全保障ではある。また、他国が狙ってくる技術は、自国が優位性を持っている技術である。 それはすなわち、自国が他国に対して戦略的不可欠性を持っている技術と言うことができる。戦略的不可欠性を確かなものにするためには、技術管理が徹底されていなければならない。その意味で、技術流出を制限する「セキュリティ・クリアランス制度」も、戦略的不可欠性を強化するための措置と言うことができるだろう。 技術不拡散の問題は、米中の軍事的緊張が高まる中、日本の安全保障にとって極めて重大な問題である。軍民両用技術の管理を徹底することは、日本にとって、引き続き重要な課題となるだろう。 ■ 日本は「戦略的不可欠性」を発揮できるか では、そのような状況の中で日本はどのような道を進めばよいのであろうか。そこで重要なのが、自民党提言にあった「戦略的不可欠性」である。仮に中国が日本に対して制裁的な措置をとろうとしても、中国が日本に依存する度合いが高ければ、実施は容易ではない。 経済的相互依存の状態で、グローバルなサプライチェーンのネットワークがあるということは、日本が中国に依存しているだけでなく、中国も日本に依存している状態が生まれているのである。その状態を活かすためには、日本は他国が持たない技術や製品を持ち、それらが容易に流出しないようにしっかり管理し、常に日本を「不可欠」な存在だと他国に認めさせることである。
現在の経済安全保障の文脈で語られることの多い半導体でいえば、やはり日本が高いシェアと品質を誇る半導体素材や製造装置は「不可欠性」を象徴するものとして挙げられるだろう。もちろん、中国との関係を完全に切り離してしまえば、中国に対して「不可欠性」を武器とすることは難しくなる。 そのため、中国に対しては相手が手にしていない技術の開発を進め、その製品に中国が依存する状態を作り出すことも重要になる。これにより、資源のない日本であっても、相手に対する「戦略物資」を手にすることができる。 技術移転の可能性を限りなく小さくしつつ、その技術を使った製品を積極的に使って相手が依存する状態にすることで、いざという時に「戦略的不可欠性」を発揮するのだ。デカップリングが進み、相互依存の状況でなくなれば、相手に対して圧力をかけることもできなくなる。 ゆえにデカップリングは経済安全保障の戦略としては不適切なものであり、むしろ積極的に他国を自国に依存させるような措置こそ、経済安全保障戦略として適切なのである。こうした状況を作り出すことが、経済安全保障上の抑止力となる。その抑止力を活かす手段として、技術の向上、製品化と、技術そのものの不拡散を徹底することが重要となる。 経済安全保障とは、サプライチェーンの安全保障のためにコストを無視して戦略的重要産業を国内回帰させることではない。日本がグローバルなサプライチェーンで不可欠な存在となることであり、他国が日本に依存し続けるような技術不拡散の徹底によって達成することができるのである。 グローバル化が進み、世界がグローバル・サプライチェーンで結びつく中で、ESは国家のパワーの反動として位置づけられる。その有効性が限定的であったとしても、やはり「別の手段の戦争」として、今後の国際政治のツールとみられるであろう。 ならば他国のESから自国を守る経済安全保障の観点も、今後の国家運営においては必要不可欠なものとならざるを得ないのだ。
鈴木 一人