習近平が進める「千人計画」、技術流出へのアメリカの対抗策と日本に欠かせない「戦略的不可欠性」とは?
こうした依存を低減するための政策的手段が必要で、それを考えるのが経済安保ということになる。マスクであれば日頃からの備蓄を増やす、供給源を多元化する、代替品を開発するなどの措置が必要になるだろう。そのためには、国際社会に信頼できる国を増やしていかなければならない。 これはモノに限った話ではない。すでにデータの世界ではデータ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト(DFFT)33 、つまり「信頼性のある自由なデータ流通」という言葉がある。プライバシーやセキュリティ、知的財産権に関する信頼を確保しながら、ビジネスや社会課題の解決に有益なデータが国境を意識することなく自由に行き来する状態を保てるよう、各国が連携する取り組みが始まっている。 序章でも述べた通り、2000年代に入ってから「データは21世紀の石油」との言葉が生まれた。これは国家や産業を揺るがす「戦略物資」は資源やエネルギーだけではないことを示している。 我々の生活に身近な、それ以上に我々自身が日々、パソコンやスマートフォンを使うことで自ら生み出している消費行動、移動、検索履歴などのさまざまなデータが、テクノロジーによって資源と同様の重要性を持ち始めたからこその表現と言える。 日々、人々が生み出している膨大なデータ、つまりビッグデータを分析・加工したデータは「資産」である。そのビッグデータを処理し、国内外でやり取りする土台となるのが先端のロジック半導体であり、データ通信を支えるインフラなのである。 このことを念頭に置けば、2020年代初頭からアメリカが5G通信を提供する中国の通信大手企業ファーウェイを警戒し、アメリカ国内から締め出した理由も見えてこよう。こうしたデータを国家間でやり取りするには、プライバシーや知財などの価値観を共有する国々でなければ連携はできない。 ■ 中国による研究者の引き抜き「千人計画」 サプライチェーンの安全保障とは異なる形で論じられているのが、技術の不拡散による国家安全保障の問題である。これはすでに伝統的な安全保障貿易管理の枠組みとして、外為法に基づき実施されているものではあるが、近年では大量破壊兵器や高度な通常兵器だけでなく、将来的に軍事転用される可能性のある新興技術の管理なども重要なイシューとなっている。 とりわけ中国が強みを持つ、無人兵器に関連する技術や人工知能(AI)などに関するものも、中国向けの輸出には制限をかけるべきであるとして、アメリカでは2018年に輸出管理強化法(ECRA)34 を採択し、これまでの輸出管理対象品目に加え、進行技術も管理対象に含めることを明らかにしている。 33:Data Free Flow with Trust 34:Export Control Reform Act