イチロー氏 大阪公立校の“夢”へ最後まで本気の言葉「勉強、時間、場所…そんなこと知ったこっちゃない」
マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクターのイチロー氏(51)が9、10日の2日間にわたり大阪の大冠野球部を臨時指導した。野球部訪問は昨年12月の沖縄・宮古に続いて5年連続通算9校目。 【写真】指導を終え、大冠高の選手たちに語り掛けるイチロー氏 「夢叶(かな)え甲子園」――。今回の指導のきっかけは、強豪私立がひしめき合う大阪で「本気で甲子園を目指す」公立校の選手全員からの手紙だった。2年28人(うち1人は女子マネジャー)、1年18人(同1人女子マネジャー)に加えて7月に引退した3年生部員も14人中13人(同1人女子マネジャー)が参加。イチロー氏は、情熱は伝わったが、自分たちの現在地や強豪私立を倒して勝ち上がることの難しさをどこまで理解しているのか、聞こえのいい目標を持つことで満足してしまっていないだろうか、彼らの覚悟と正しいアプローチができているのか、そこを確かめたかった。「強豪私立を倒す」という目標を掲げる公立校の本気度を厳しい目で見てみたい――。その思いで訪問を決めた。 監督に事前に自身が来ることを伝えないでほしいと要望し、サプライズで登場。そして「初めましてイチローです。手紙届きました。凄く情熱が伝わってきました。17年に惜しいところ(大阪大会準優勝)まで行って。公立で甲子園に行ったのは渋谷以来?それ以来を目指してほしいけど。もちろん大阪の結果はフォローしています。大阪の状況を見ると、大阪桐蔭と履正社の2強なんだろうと。強烈に意識しているよね?一方で相手がどう思っているか考えてほしいんだよね。彼らはどう思っているか、考えたことある?僕は愛工大名電で野球をやっていて、愛知4強と言われて。この立場からするとベスト16のチーム、眼中にないです。意識もしていない。相手は相手と思っていない。そこに挑むんだよ。練習でできることは限りがある。基本的なことしかやらないです。どこまでいけば対等にできるのか。練習ではものにできたかもしれない。でもゲームで生かせるかは別。強豪校は強豪校としかやっていない。自分たちがうまくなるレベルのチームと試合をしている。だから(強豪と)差が開いていく。その壁は相当厚い。でも、みんなの情熱を持っていたら、一発勝負なら。初めましてでここまで厳しいことを言うのは初めてです。僕も本気で来たと言うことを知っておいて。みんなにとって厳しい人っている?怖いなとか。めんどくさいとか思う人がいある?いたら幸せなことですよ。そういう人をもっていてほしい」と約10分間かけて選手たちへ、あえて厳しい言葉を投げかけた。 2日間、メンタル面から技術面にわたって指導を行ったイチロー氏。「技術はある。でも(強豪私立を倒して甲子園へという)気迫は感じなかった。ベスト8を目指すっていうのなら“あ~っ”て感じ。努力もできる。体力もある。でも、格下もしくは同等の相手とやるイメージで練習してるように見える。みんなが目指しているところは違うでしょ。その気迫がなかなか伝わってこない。勉強もしっかりやらなきゃいけない、野球やる時間も限られてる、場所も限られ…いやそんなこと知ったこっちゃないでしょ。だって目指してるんでしょ」 最後も厳しい言葉を口にしたイチロー氏。「この空気を覚えておいて」「(これから)しっかり見ておくから。しっかりと大冠高校をフォローさせてもらいます。そういう気持ちでいます」。 17年、あの大阪桐蔭を相手に8―10と負けはしたが「甲子園」まであと一歩のところまでいった大冠。強豪私立を倒して夢舞台に行くことを本気で目指している部の、選手の、そしてマネジャーたちの、さらなる進化に期待を込めて、イチロー氏の「本気」の言葉を伝え続けた2日間だった。 大冠は、大阪府立島上高校の分校・島上大冠として1986年に創立された大阪の公立校。部のモットーは“練習を信じ 仲間を信じ 己を信じ 夢叶え甲子園”。同校の主な卒業生に2019年ドラフト2位でヤクルトに入団し、現在は東邦ガスに所属している吉田大喜、歌手で俳優の柳めぐみ、ボートレース選手の太田和美、お笑いコンビ「シャンプーハット」の恋さん(本名・小出水直樹)、小説家の木下半太氏らがいる。