「町長室での性被害」 虚偽の告白騒動はなぜ起きたのか? 草津町の現地取材で見えてきたこと
●嘘の告発を信じた支援者の今
今振り返ると危うい経緯をたどってきたことが分かるが、新井氏を応援してきた人たちは今何を思うのか。 その一人で草津町の元議員、中澤康治氏(89)に会いに行くと、最初は「ノーコメントで」と言っていたが、立ち話をする中で当時の心境を徐々に明かしてくれた。 中澤氏は2019年に新井氏が告発した直後から記者会見に同席したり、草津町議会で黒岩町長の不信任決議案を提出したりするなど新井氏を最も近くでサポートしてきた。 新井氏と飯塚氏の2人とともに黒岩町長から名誉毀損で訴えられたものの、今年4月の前橋地裁の判決では唯一、損害賠償の支払いを命じられなかった。
●戦後の体験と男社会への違和感が源
まず、新井氏の話が嘘だったことについてどう受け止めているかを聞くと、中澤氏はこう答えた。 「当事者しか分からないことだから外部から想像するしかない。当事者以外はみんな分からないんだから、意見が二つに分かれてもいいと思うんだけどね。どこまでが嘘でどこまでが本当のことか分からないけど、嘘をつかれたことは事実なのでその部分は謝りたい。支援してくれた人をだました格好にもなり、申し訳ないと思っている」 戦前生まれの中澤氏は小学生の頃、朝鮮半島から群馬に来た労働者の子どもが地元の子どもたちに暴力を振るわれていた場面を強く覚えているという。 「朝鮮の人たちがやられていた時に助けてやれなかったことをいまだに後悔している。やっぱり弱い者を守りにいかないとなって」 また、以前から根回しを重視する男社会に違和感があり、女性の政治家を増やしたいと考えてきたという。 性被害を告発した新井氏を支えようと行動してきた裏には、そうした思いや経験があったようだ。
●「性被害者が泣き寝入りする世の中になってはいけない」
一連の騒動をめぐって多くの関係者が危惧しているのは、今回の虚偽告訴事件によって性暴力の被害者が声を上げにくくなるのではないか、ということだ。 黒岩町長は「実際に性被害やセクハラを受けている人はたくさんいると思います。一般的に考えれば、女性が声を上げたらそれはほぼ正しいことだと私は思うんですよ」と話す。 実際に、性暴力の被害者は無力感や自己嫌悪に苦しんだり、被害を訴えても信じてもらえなかったりするため、被害自体が表面化しにくいとされる。 黒岩町長は今回の事件を振り返った上で最後にこう訴えた。 「性被害の問題では冤罪もあるということを分かってほしいと思います。これだけ大きな事件になったわけですが、世の中にはもっと冷静に見てほしかった。今回の事件によって、本当に性被害を受けた人が声を上げづらくなっているとしたら大変な問題です。これが前例になって本当に性被害にあった人が泣き寝入りする世の中になってはいけません」