「町長室での性被害」 虚偽の告白騒動はなぜ起きたのか? 草津町の現地取材で見えてきたこと
●背景に伝統の入浴法をめぐる対立
草津町で取材を進めると、2019年頃に勃発した草津温泉の入浴法をめぐる町内の対立が告発に影響したという話が通説となっているらしいことが分かった。 ここでまず理解しておきたいのが「時間湯」だ。草津温泉で100年以上の伝統を持つと言われる入浴法のことで、「湯長(ゆちょう)」と呼ばれる人が湯治客の体質や体調にあった入浴の仕方を指導する制度が続いてきた。 医師の治療を受けても皮膚病などが改善しなかった人が時間湯で良くなるケースがあり、昔から湯長を頼りに草津温泉を訪れる湯治客がいるという。 この「湯長制度」について草津町は2019年に廃止を決定。当時の報道によると、黒岩町長は湯長による湯治客への対応が医師法に違反する恐れがあることなどを理由にあげた。 これに対し、伝統的な時間湯を守りたい人たちから反発の声が上がった。 前述した新井氏の告白文書が関係者の間で出回るのは、草津町が湯長制度の廃止を決めた時期と重なることが見えてくる。
●本出版と引き換え、知事に要望
ここから浮かび上がるのは、湯長制度の廃止を黒岩町長に撤回させるために「町長室での性被害」が作り出されたという可能性だ。 事実、飯塚氏は告発本の前半で、湯長制度廃止の方針を示していた黒岩町長への批判を展開している。そして、その流れで後半に新井氏の告白が盛り込まれている。 また、告発本の冒頭にはこうした記述もある。 <本巻刊行前に、山本一太群馬県知事にメールを送り、本巻の刊行を取り下げるのと引き換えに、黒岩町長に時間湯の復活についての提言をしていただけないものか、という内容を送信した> これについて飯塚氏は、2019年12月27日のブログで、「僕としては、本書の内容が新井元議員の立場を著しく傷つけるものであることから、可能であれば出さないで済ませられれば、という一途な思いから出たことでした」と釈明している。
●真相を知る2人 取材に応じず
黒岩町長は取材に「時間湯の改革が事件のきっかけになったとは思います」と語ったが、本当のところはどうだったのか。 湯長制度廃止を撤回させるため、新井氏や飯塚氏が黒岩町長のスキャンダルを必要としたのではないか。 真意を確かめたいと思い2人に取材を申し込んだが、次のような理由で断られた。 新井氏「弁護士さんとも相談したのですが、やはり、今回の取材は、お断りしたいと思います」 飯塚氏「現状ではまだ新井さんの裁判が民事・刑事とも決着しておらず、この段階でのコメントは差し控えたい」