現役を引退したヤクルト・近藤弘樹の壮絶な野球人生 肩の大手術乗り越えて復帰したことが持つ大きな意味
「正直、手術を受けると決めた時点で『今年で終わりだろうな』とは思っていました。また1年かかりますし、年齢を考えても来年30歳。リハビリでどこまで戻っている段階を見せられるかなと思っていたんですけど、そこまで戻っている感じがなかった。戦力外を受けて、当たり前だなと納得しました」
2018年に岡山商大からドラフト1位で楽天に入団し、7年間での登板数は通算39試合。それでも、あの力強いシュートで打者を封じる姿は多くのファンの目に焼き付いている。
「楽天では全く結果を残せなかったので、本当に申し訳ないなという思いが強いです。ヤクルトでは、1回死んだ身なので、失うものはないと思ってやっていました。球団の方には『21年、お前があそこで投げていなかったら、優勝することはできなかったから、ありがとう』と言っていただけて。少しだけでしたけど、力になれたのでよかったと思いました」
人生を変えてくれた伊藤コーチへの感謝も尽きない。楽天時代から指導を受け、ヤクルト移籍の際も自身の能力を買ってくれた。そして、21年の春季キャンプで「シュートを投げろ」と助言をもらったおかげで、1軍でも活躍できた。
「あそこで言われていなかったらシュートを投げてないし、今の自分はなかったと思う。伊藤コーチとの出会いがなければ、僕はもっと早く野球をやめていたと思うので、感謝しています」
前例のない手術を受け、再びマウンドに戻った事実は、今後のプロ野球界にとっても大きな意味がある。「自分と同じようなけがをして、駄目だと思う選手も絶対いると思うんですけど、復帰できるんだよという事実は示せた。今後同じようなけがで苦しむ選手が手術をして、リハビリをしたらここまで行けるんだよというのを知ってほしいなと思いますね」と近藤。来季からは楽天の球団職員となり、恩返しをしていくつもりだ。
最後に、近藤氏は言った。「悔いがないことはないですけど、肩をけがした場面で、投げないという選択肢は自分の中ではなかった。あの登板に関して自分の中では悔いはないというか、そういう野球人生だったんだろうなと思います」。まさに壮絶な野球人生。その証し、残したものが、今後の野球界のためになると信じている。(赤尾裕希)